沖縄とキリスト教、沖縄のキリスト教(1)――なぜ日本人(ないちゃー)は沖縄に心を向けないか


倉田夏樹(南山宗教文化研究所非常勤研究員)

本年2018年は、6・23の「沖縄慰霊の日」にあわせて沖縄を訪れた。今年は2月にも沖縄本島と八重山諸島を訪問していたので4か月ぶりの再訪となる。6・23は沖縄戦が終わった日で、沖縄の人びとにとっては、内地の8・15よりも影響力が大きい特別の日だ。しかしながら、この「6・23」を一体どれだけの内地日本人が認識しているかというと、答えは相当に怪しい。そもそも戦後73年が経って、「8・6」(広島原爆の日)と「8・9」(長崎原爆の日)、あまつさえ「8・15」(終戦の日)が何の日かさえ知らない日本人成人(18歳以上)が近年たくさんいる。以前は「八月や 六日九日 十五日」という被爆者による句が、よく紹介されていたはずだが……。

今年は二度の沖縄滞在を機に、大いに沖縄に思いを馳せることができた。

 

沖縄キリスト教史をひもといて

フランシスコ・ザビエルの一行は1549年に中国経由で鹿児島の坊津に上陸し来日したと言われる。ザビエル一行と沖縄との関係は史料には記されていない。

石垣永将殉教地(火刑跡地)にある祠(〒907-0024 沖縄県石垣市新川54)

沖縄の史料に最初にキリシタンが出てくるのは、日本で禁教令が出された後の1624年に琉球王国支配下の八重山(石垣島)で起こった八重山キリシタン事件である。石垣永将という島の有力者(宮良頭)が主人公であり、この人物は、善政をなして島民から評判がよかった人物で、「琉球最初のキリシタン」「琉球最初の殉教者」と言われている。ことのおこりは、1624年の夏にスペイン人のドミニコ会宣教師のルエダ(Juan de los Angeles Rueda)が八重山に漂着してきたことである。そのルエダら遭難者を石垣永将が保護したことから、石垣永将がキリシタンの教えを受けたと疑いをかけられ流罪となり、さらに1635年には火刑に処された。ルエダも琉球王府に連行されたのちに粟国島に流され、処刑された。この事件以降、琉球においても宗門改が実施されることになり、日本による禁教政策下となる。青山玄『石垣永将の殉教――琉球最初のキリシタン』(聖母文庫)に詳しい。青山さんによると、石垣永将をキリシタンとしながらも、外国側(宣教師側)の史料には、石垣永将が洗礼を受けたという記録はないとしている。

石垣永将の殉教地には現在も祠があり祀られている。向かって左が石垣永将、右が弟を記念する石である。祠にはよく見ると十字架にも見える紋があり、祠の入口には今は教会らしい装飾がなされているが、以前は鳥居が設置してあったようだ。長崎のキリシタン史蹟にも似ており、複雑な歴史的背景があるようだ。

八重山キリシタン事件によって沖縄が禁教下になって以降、沖縄においてキリスト教が白日の下に現れるのは、幕末を待つことになる。

日本のプロテスタントの側で、2009年を「日本プロテスタント宣教150年」として祝おうとした際に批判が入れられ、急遽「/沖縄プロテスタント宣教163年」などと併記されたことがあった。ベッテルハイムというユダヤ系の聖公会宣教師が、1846年に英国人として沖縄に到っていたからだ。沖縄への配慮は当然なされなければならないし、厳密に言うならば、聖公会をプロテスタントと区分すること自体に聖公会の側から異論もあろう。祝賀イベントには慎重を要する。

石垣永将殉教地にある碑

カトリックの側でも、昨今「再宣教150年」関連の祝賀イベントが開かれている。プティジャンは1862年に横浜の土を踏むが、それより前の1844年に、同じくパリ外国宣教会のフォルカード(のちの司教)が沖縄を訪れている。2年間ほど那覇・天久の聖現寺に滞留し、『琉仏辞典』を執筆するも、琉球語が日本では使えないことを知ると怒り悲しみ、その辞書を海に棄ててしまったエピソードは有名である。残っていれば、一級史料になったであろうに。その後1855年に、同じくパリ外国宣教会のフューレ、ジラール、メルメ・デ・カションらが那覇を訪れ、プティジャンはそれより遅れて1860年に来琉する。「日本カトリック再宣教150年」などとやるとプロテスタントと同じ轍を踏むので、「〇〇教区再宣教150年」などと工夫しているようだ。今年2018年は「大阪教区再宣教150年」である。

カトリックにとってもプロテスタントにとっても、幕末期において沖縄は「要石」であったわけだ。日本開国の契機となったペリー提督も、浦賀に現れる前の1853年6月に沖縄を訪れている。その後、琉米修好条約という条約を締結している。欧米列強の各勢力が、日本開国をにらんで沖縄に滞在していたわけである。

2につづく

 


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