アート&バイブル 9:最後の晩餐


ジョット『最後の晩餐』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

ジョット(Giotto di Bondone, 1267頃~1337)の作品に興味があるならば、パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂を抜きにしては語れません。礼拝堂のすべての壁面にジョットの真筆で描かれたヨアキムとアンナの生涯、聖マリアの生涯、そしてキリストの生涯は、それ以降の画家たちにとって、様々なインスピレーションの源泉となりました。建物の描き方にはすでに遠近法が取り入れられており、12人の弟子たちの表情も様々な心の動きや感情を表しています(鑑賞のポイントとあわせて、図2参照)。

図1:12~13世紀に作られた北シリアの典礼用福音書の「最後の晩餐」の挿絵(ロンドン、大英図書館蔵)

参考のために、12~13世紀に作られた北シリアの典礼用福音書の挿絵の最後の晩餐(図1)と、ジョットの作品を比べてみてください。12~13世紀の東方の挿絵では、まだ遠近法がないためになんと最後の晩餐を描くために上から見下ろしたような構図で描かれており、円形のテーブルの周りに12人の弟子たちが横向きに描かれたり、逆さまに描かれたりと苦労がしのばれます。この挿絵ではキリストが立ちあがっており、右手をのばしてユダを指し示しています。ユダは皿の方に右手を伸べていますが、左手で思わず金袋(あるいは金をいれたポケット)に置いています。

弟子たちの表情は素朴で、弟子たちが誰であるかがまだ判別できるほど個性的には描かれていません。髭の有無や髪の毛の色の違いなどで多少の区別がつけられていますが、目や口などはイラストのように単純です。

 

【鑑賞のポイント】

(1)この中に私を裏切る者がいる

イエスが「この中に私を裏切る者がいる」と言われた時、ペトロ(イエスの胸に寄りかかっているヨハネのすぐ左隣りにいる)は、その表情を曇らせ、「それは誰ですか?」と問いかけているようです。「私と同じ鉢に手を入れている者がそれである」とイエスが答えたその時、ユダがイエスと同じ器に触れています。ユダの席はイエスの右側(ヤコブがイエス様の右隣で、そのすぐ右隣に描かれています)の席にいます。つまりゼベダイの兄弟(ヤコブとヨハネ)がイエスの左右に、それに続いてイエスに近い左右の席にペトロとユダが描かれています。

図2:ジョット作『最後の晩餐』(1304~05年、パドヴァ、スクロヴェーニ礼拝堂)

これはユダがペトロに匹敵するほど12人の弟子の中では席次が高く、弟子たちの中でも特別なポジションにいたことを表しています。ユダだけがガリラヤ出身ではなく、教養もあり、ギリシャ語も話すことができ、才覚もあり、機転の利く人物、イエスの秘書的な役割、グループの会計係りとして信頼が厚かったという描き方なのです。ジョットより後の画家たちがユダだけを仲間外れに描いたり、グループのお金を横領していたりというような悪意のある人物として描いたのに比べると、ジョットのユダの理解は現代的であるとさえ思います。

 

(2)12~13世紀の挿絵

イエスは右手で指さしていますが、左手には四角のお盆か皿のようなものを持っています。そして、12人の弟子たちの前に置かれた皿の上に丸が描かれています。まるで二重丸のように見えますが、これは各自の皿の上に聖体がイエスによって配られたことを表しているのです。ユダは聖体を受ける前に部屋から出て行ったと考える時代もありましたが、ユダも聖体を受けていたのです。

 


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