《対話で探求》 ミサはなかなか面白い 42:根底にあるイエスの食事の記憶


根底にあるイエスの食事の記憶

答五郎……さて、探究は「感謝の典礼」にいったところだが、いいかな。式次第順に見ていくこともひとつの方法だけれど、まず「感謝の典礼」全体を見渡すということが大事だよ。その成り立ちを考えるということかな。

 

 

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問次郎……つまり歴史ということですね。

 

 

答五郎……たしかに成り立ちは歴史ともいえるのだけれど、その歴史を上から眺めるというよりも、今のミサの形、式次第として展開される感謝の祭儀の流れというか構造というか、いわば“つくり”を見るということかな。

 

 

女の子_うきわ

美沙……今のミサの姿を思って考えていればいいのですね。

 

 

答五郎……そう、それをいつも念頭に置いておいて考えてほしい。まず「感謝の典礼」の式は、おおまかに言うと「供えものの準備⇒奉献文⇒交わりの儀」というふうに展開していく。

 

 

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問次郎……見た印象だと、共同祈願のあと、献金があって、それから、パンとぶどう酒と水をもって奉仕する人と、集められた献金を入れた籠などが会衆席後ろから前の司祭のところに届けるという動きになりますね。

 

 

女の子_うきわ

美沙……式次第を見ると、奉納行列とあるところですね。

 

 

答五郎……そう、「奉納」という言葉はとても日本語的なのだけれど、ラテン語の原語を直訳するとここの部分が「供えものの準備」となるのだよ。ここからの大きな流れをとり結ぶところにひとつの祈願があるのだが……。

 

 

女の子_うきわ

美沙……奉納祈願ですね。

 

 

答五郎……そう、いわば奉納行列で始まり、奉納祈願で結ばれるところまでが「供えものの準備」の部。それに続くのが「奉献文」、最後が「交わりの儀」だ。

 

 

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問次郎……聖体拝領のところですね。

 

 

答五郎……そう、簡単にいえばその部分なのだが、その締めくくりはどうなっているだろう。

 

 

女の子_うきわ

美沙……「拝領祈願」ですね。

 

 

答五郎……こうした祈願が式の区分の目印になっていることがわかるだろう。ところで、「供えものの準備⇒奉献文⇒交わりの儀」という流れの中で、中心となっているものはなんだろう。

 

 

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問次郎……パンというか聖体でしょうか。

 

 

答五郎……そうだね。基本的にはね。そして、そこにはぶどう酒もセットされていることを見てほしいね。     いずれにしても、この「感謝の典礼」の中では、パンとぶどう酒の杯が祭壇に用意され、それら     の上に司祭が祈り、皆に分けていくという流れだろう。祭壇ももともとは食卓なのだよ。

 

女の子_うきわ

美沙……ああ、そうなると、感謝の典礼全体は、祈りを一緒にした食事のような流れですね。

 

 

答五郎……そう。そこで思い出してほしいのは、福音書にたびたび触れられるイエスが中心に行う食事のときの動作だ。もちろん、最後の晩餐で、この感謝の典礼を制定したといわれる部分もそうなのだが、たとえば、マルコ福音書6章30~43節の「五千人に食べ物を与える」という箇所の中の41節を読んでごらん。

 

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問次郎……はい。「イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて、弟子たちに渡しては配らせ、二匹の魚も皆に分配された」

 

 

答五郎……ありがとう。パンに関してみると「取って、賛美の祈りを唱え、裂いて渡した」という行為が浮かび上がるだろう。もちろんその前にパンが用意されていたということがあるけれど。実はこのような動作は、同じようにパンで多くの人を満たした話のほかにも、最後の晩餐(マルコ14・22。ほかマタイ、ルカの同様の箇所)、それからエマオに向かう弟子たちに復活したイエスが現れた場面でも(ルカ24・30)でも出てくる。

 

 

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問次郎……なにか特別なわけがある動作なのですか。

 

 

答五郎……いやぁ、あの時代のユダヤ教の信仰生活の中で神を賛美しながら食事をするという会食儀礼のようなものが、たとえば過越祭の食事とか安息日の食事というふうに、豊かに行われていたらしい。その中に、食べ物を手にとって神に祈りをささげてから皆に分けるというのは、当然の動作だったようだ。

 

女の子_うきわ

美沙……でも、イエスの食事のときの動作は、さりげなく繰り返されている分、とても印象深く伝わりますね。

 

 

答五郎……そうだろう。そして、準備されていた食べ物を手にとるまでの部分、そして、手にとって祈りをささげる部分、それを分けていく部分を大まかに分けることができるとすれば、それが、感謝の典礼の三部構造の背景というか根源にあるというふうに考えることができるのだよ。

 

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問次郎……式次第を見ていると、いろいろな言葉や歌や祈願があって、複雑そうに見えますが、「感謝の典礼」の根底には、イエスとの食事、主の食卓があるのですね。

 

 

答五郎……主の食卓、主の晩餐、パンを裂くことと初期に呼ばれていた事実を次回は見ていこう。

(企画・構成 石井祥裕/典礼神学者)


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