聖母マリアの名にちなみ


マリア、という名前を聞いて聖母を思い浮かべる日本人はそう多くないかもしれません。欧米では一般的な女性の名前の一つです。そこからマンガ等々に大変よく登場してきます。ニコニコ大百科に主な使用例が列挙されています。そこだけでも40ほどはありますが、当然その程度ではないでしょう。

聖書の中では、この名前はモーセの姉であるミリアムに遡ります。エジプトを脱出したイスラエルの民をモーセとその兄弟アロンとともに導いた指導者として登場する人物です。元々はエジプトにいて、生まれたばかりのモーセが殺されないように機転をきかせて助けたのは彼女です。有名な海を渡るシーンでは、無事に海を渡ったあと、ミリアムがタンバリンを持って神を賛美して歌い出すという場面があります。別の箇所ではアロンとともにモーセにたて突いて罰を受けて病気になったりもします。このミリアムが、アラム語やギリシア語を経由して、後にマリアという名前になります。

このミリアムという名前の意味なのですが、実は詳しいことはわかっていません。「神の贈り物」、「愛された者」という意味が提案されていますが、「苦い海」「反抗する者」「太った者」という諸説も提案されています。聖書では人の名前で人物描写することが稀ではなく、このように本来の意味がわからないと、難しいとしか言いようがなくなってしまいます。物語から直接人物を想像するしかありません。

さて、ローマ帝国末期の時代の聖人で聖書解釈者として有名なヒエロニムスという人がこのミリアムの名前の意味を「海のしずく」と解釈しました。ミリは元はマルで滴という意味、アムはヤムで海の意味だというのです。ラテン語では Stilla Maris となります。これが後にどういうわけだか Stella Maris「海の星」という言葉となって、マリアの称号、タイトルとなってカトリック教会に定着していきました。羅針盤が中国からヨーロッパに伝来し発達するまでは、船乗りにとって天測、星の導きが唯一の頼りでした。中世からアヴェ・ステラ・マリスという祈りがありますが、聖母マリアに数多くあるイメージのひとつに、このような暗闇の中で輝くマリアというイメージがあります。海沿いや港町の学校や病院に「海星」や「海の星」という名前の施設がたまにあるのはこういうわけです。マリアに献げられたもの、という意味でそう名付けられるわけです。

ところで、マリアは英語ではメアリー、フランス語だとマリーになるのは有名ですが、英語圏で教会に行くと Our Lady という表記を頻繁に見かけます。ドイツ語では Unsere Lieb Frau(ウンゼレ・リープ・フラウ)、フランス語では Notle-Dame(ノートル・ダム)、ラテン語やイタリア語では Madonna(マドンナ)です。これは「我らの淑女」「私たちの貴婦人」という意味で、聖母マリアのことを指しています。「マドンナ的存在」という表現はここから来てるんですね。

文・写真=石原良明(AMOR編集部・サブカルマニア・聖書読み)


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