楽譜の発展 1


齋藤克弘

前回は楽譜の起源についてのお話でした。最初の楽譜には「線」がなかったというのには驚いた方もられたでしょうか。

ところで、皆さんは楽譜をすらすら読めますか。「楽譜を読む」なんて変な言い方だと思われるかもしれませんが、音楽を専門に学ぶとこういう言い方をしますが、言い方を変えてみましょうか。皆さんは「楽譜を見て、すぐに歌えますか」と。歌詞がついていてもついていなくても構いません。いかがですか。おそらく「すぐには歌えないよ」という方が多いと思います。いや、もしかしたら「楽譜を読む」のが難しくて、「音楽を聞くのは好きだし、耳で聞いたのを覚えて歌うのはいいけど、楽譜を見て歌ったり、楽器を演奏したりするのには抵抗があるんだよね。」と言う方が大勢いらっしゃるかもしれませんね。

実は、かく言うわたくしも、楽譜を見てすぐに歌ったり楽器を演奏したりする(音楽の専門用語では「初見」あるいは「初見で演奏する」と言います)は、とっても苦手です。「音楽の専門家がそれじゃ困るでしょ」と言われそうですが、少なくとも最近まではそうでした。音楽大学に在学していたのがもう30年以上前ですから、これほど長い間、苦手だったのです。

皆さんが「楽譜を読む」のに抵抗がある一つの理由、わたくしは、現在の音楽教育で、最も複雑な「五線譜」から入るからだと考えています。前回も書いたように、最初の楽譜は、音は耳で覚えていて、その音を相対的に表したり、早く歌ったり、ていねいに歌ったりする記号、今でいう「表情記号」が書かれているにすぎませんでした。実は、それが約100年続きます。しかし、グレゴリオ聖歌もレパートリーが増えてきたからでしょうか、音の高さがわからないと困るようになったのでしょう。初めて音の高さを表す方法が開発されました。それが「一本の線を引く」ことだったのです。

今まで何もなかったところに「一本の線を引き」、それによって特定の音を表した。わたくしは、これは、音楽史上、最大の発案だと思います。これを考案したのは「ドレミ」を考案したアレッツォのグイド(11世紀初めの音楽理論家、修道士)だとも言われています。

さて、この一本の線の左端には、アルファベットの中から二つの文字だけが書かれることになりました。それは「C」と「F」です。今の「ドレミ」でいうと「ド」か「ファ」のどちらかが書かれているのです。では、なぜ他の音ではなくこの二つの音になったのでしょうか。実はこの二つの音には他の音にはない共通点があるのです。皆さんがよくご存じの鍵盤楽器(キーボード)を思い出してください……。

わかりましたか。そうです、この二つの音はその下の音が「半音」つまり、ピアノ(キーボード)では間に黒鍵(黒い鍵盤)がないのですね。それと、これはわたくしの憶測ですが、線のところに「C」と「F」の空いたところがぴったりと収まりますよね。半音を表すのなら、下の音ではなくて上の音とでもいいようなものですが、「E(ミ)」はいいとしても、「Si(シ)」じゃ線にきちんとはまりませんよね。

こういう風にして、最初に「手振り」だけが書かれた楽譜が発明され、それから約100年後に「一本の線を引く」という画期的な方法で、音の高さを表すようになったのです。

その後、楽譜は次第に線が増えていき、四線から現在の五線になりましたが、最初に書かれた「C」と「F」(音楽用語では「音部記号」と言います)は実はバロック時代、バッハやヘンデルの頃まで使われていたのです。これについては、次回、くわしくお話ししたいと思います。(典礼音楽研究家)


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