入祭の歌は感動
答五郎……さて、会衆の集まり、入祭の歌、司式司祭と奉仕者の行列がミサの始まりを示すものだが、もう一つ、この瞬間で見られる大きな動きはないだろうか。
問次郎……そうですね~。ああ、皆がここで立ちました。立って、歌を始めます。
答五郎……そうだ。見学者として席から見ていると、結構、信者さんの動きもいろいろだろう。
問次郎……立つということには何か意味があるのですか?
答五郎……そうだね。確かに意味があるのだが、一義的に言うことができない面もある。いつ立つかについては、基本的には司式司祭の動作が基準となるといってよいのだが例外もある。立つ動作といってもミサの各部分ごとで意味合いがさまざまだともいえるので、そこは一つずつ考える必要がある。もう一度、始まりの瞬間を思い出してごらん。ミサが始まって、ああ、ミサらしいなと感じさせられるものはなんだろう。
美沙……やはり歌ですね。ふつうこんなにたくさんの人で歌うということは、合唱団にでも入っていないかぎりまずないことですもの。やはり、たくさんの人が神をたたえる歌に声を合わせるというところがとくに典礼ならではと思います。
答五郎……そうだね。会衆が立って歌い始めるというところに、まずミサが始まったということが示されているね。司祭・奉仕者の動きがもちろん目立つけれど、会衆の行動も大事だろう。一人ひとり、ここは自然と立つし、自然と歌うように導かれるのだよ。こういうところにも、一人ひとりがミサを行っているということ、役目を果たしているということが表れているのだけれどね。
問次郎……ぼくは、結構歌が好きで、ちょっとこだわりもあるのですよ。歌は、たくさんの人や声があっても、一つのことばに声が合わさるという不思議な効果をもっていますね。典礼で歌われるとき、そこにはなによりも、教会の人の一致を生み出す効果が発揮されるのでしょうね。
答五郎……そう。すごく大切なことを言ってくれたね。ミサには歌はつきものだが、どの場合でも、会衆が一つだということが示される。ミサが始まる前、たしかに聖堂に人は集まっていても、それぞれの時の過ごし方でいるだろう。でも、ミサの始まりにみんな立って歌を歌うとき、この人たちが一つの会衆、つまり共同体なのだということがはっきりと表れるのだよ。
問次郎……歌というのは、一人ひとりの声の特色を残しつつ、それらがそのグループ独特の声を現れさせるものです。そこに感動も生まれるのですよね。
美沙……(突如)♪「主を~、たたえよう~~」
美沙・問次郎……「主は~いつくしみ深く~、その~あわれみは永遠~」♪
答五郎……はは~ん。覚えた歌もすでにあるのだね。入祭の歌は自分も好きでね。なにか神に向かう喜び、や賛美の気持ちを強めてくれる歌が多いだろう。
問次郎……この入祭の歌は、司祭・奉仕者の入堂の行列を盛り立てて飾るものという理解でいいですか。
答五郎……たしかに『ローマ・ミサ典礼書の総則』(新総則47番)にも「飾る歌」と記されているのだけれど、現象としては入堂行列のときに歌われる、つまり行列に伴われる歌だ。ほかにも、奉納行列のときの奉納の歌、拝領行列のときの拝領の歌というものがあり、その三つのうちの一つだ。だから、行列賛歌というふうに分類されるときもある。
答五郎……ただ、どうだろう。歌は行列を飾るのかもしれないけれど、それを歌う皆は、ただそこに飾りでいるだけなのだろうか。ただ、司祭・奉仕者の行列を見ているだけなのだろうか。
美沙……司祭が一緒に歌っている場合もありました。よく大声の人もいて、結構、目立つ場合もありましたよ。
答五郎……ははっ、それは大事なことだね。歌わない司祭もいるけれど、ほんとうは皆が歌うというのが入祭の歌の姿だろうね。ということは……、歌っている会衆はただ見ている人ではなくて……。
美沙……あのう、ひょっとして、会衆も行列しているのはないでしょうか。
問次郎……そうか! 会衆は動いていないけれど、実際には行列に参加している。動いてはいないが意味としては歩いているということをまさに歌が表現しているのですね。たしかに歌にはリズムや流れがあって、適度な繰り返しもあって、時間の中を歩んでいく感じが表れますよね。それにしっかり声を出して歌うと、それだけ十分すぎるぐらいの全身運動ですよ。
答五郎……そうなんだ。歌は、まさしく声の行列、声でする行列歩行だ。歌いながら皆が入堂行列に参加しているのだよ。そこに、神の前に、キリストのほうに心と声で一致して向かっていく神の民(つまり教会のことだが)、その心が表されるのだよ。
問次郎……うーん、入祭の歌って、感動ものですね。
(つづく)
長年、聖歌隊で歌ってきましたが、今回の「入祭の歌」に込められた意義をあらためて実感させていただきました。どうもありがとうございます。
それだけに、このコロナ禍でほとんどの教会で聖歌をうたうことが止められているのが、何ともつらいです。