《対話で探求》 ミサはなかなか面白い 6:充実した沈黙


充実した沈黙

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問次郎……答五郎さん、こんにちは。あれっ、この大きな赤い本はなんですか?

 

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答五郎……これは『ミサ典礼書』だ。1978年に発行されて、今、日本のカトリック教会で行われているミサのための本だ。式次第とかミサで唱えられることば、祈りが載っている。勉強のために入手しておいたんだよ。信徒のためには、簡単な本がいくつか出ているが、そのもとになっているのがこれなので、これを基準に考えていこう。

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問次郎……祭壇であちらこちらをめくりながら、司祭が祈りを唱えているのに見ているあの本ですね。

 

 

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答五郎……さて、まず二人とも、ミサの見学で聖堂に入ったときのことを思い出してごらん。ミサが始まる前の様子で何か気になったことはないかな。

 

 

女の子_うきわ

美沙……わたしは、まず、あの聖堂の広く、静かな雰囲気が好きです。自分の家や部屋では味わえない、広さ、天上の高さですもの。

 

 

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答五郎……これは典礼書以前のことだな。でも、それはほんとうだと思うよ。日常の生活空間とはもちろん違うはずだが、でも同じように広いところはあるだろう。屋内野球場とかコンサート会場とか。

 

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問次郎……自分も、ミサが始まる前の時間とたとえばクラシック音楽のコンサートが始まる前の時間の様子の違いを考えてみました。感じたのは、ミサの前の時間はとても大事らしいということです。コンサートの始まる前の待ち時間は、聴衆にとってはそれぞれが思い思いのことをしているという意味で、いわば空き時間、空虚な時というしかないのではないかと思います。

 

 

女の子_うきわ

美沙……わたしも思います。ミサの場合は、静かなひとときに意味があるというか、なにか充満した時間と空間があるように思うのです。聖堂内にあるさまざまなものがそのような雰囲気を醸し出しているのではないでしょうか。祭壇とか十字架とか……。

 

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答五郎……それは新鮮な指摘だな。慣れっこになってしまうと、あまり感じないものだ。でも、完全に静かではなくて、動いている人もいるだろう?

 

 

女の子_うきわ

美沙……はい。聖歌隊では歌の練習をしていることがありますし、司祭らしき人や役員らしき人が祭壇周りやいろいろなところで用事をしています。

 

 

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答五郎……そういったことがうるさく感じられることはなかったかな?

 

 

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問次郎……案外、沈黙が妨げられることに怒るような人がいないのですよね。考えてみたら、独りで静かに祈りたいと思ったら、もっと静かに!と注意したり、文句を言いたくなったりするのでしょうが。でも、ミサのための聖堂に来るということは、自分独りが静かに祈りたくて来るのではないのですよね。

 

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答五郎……それは大事なことよ。ミサは、独りでする祈りではない。たくさんの信者か集まって行うものだということだ。それほどのものだから、さまざまな準備が必要になる。動いている人も、決して普通のときのような動きではなく、ミサの前の、ミサのために行うことだという意識をもって、それなりの抑制された態度、周りを気遣う気持ちにあふれているだろう。

 

 

女の子_うきわ

美沙……そうなんです。そんな「ミサのために」という気持ちで一致した雰囲気が印象深いんです。

 

 

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答五郎……そんな準備は司祭や役員だけのものだろうか。集まっている人々の様子はどうだろう?

 

 

女の子_うきわ

美沙……わたしたちも配布されているものを手にしましたが、聖歌集とか聖書のことばや祈りが書いてある冊子とか、みなさん手にしていますよね。ほかにも配布物がいろいろあって、それを読んでいる人もいれば、静かに過ごしている人もいます。

 

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答五郎……そう、人それぞれだね。司祭も役員もそれぞれの務めに応じた準備をしているのが、ミサの前の光景だ。でも、全体があることへの配慮を含んだ沈黙に支配されているとは思わないか?

 

 

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問次郎……たしかに、そうですね。ただそれがなんだか考えたことはありませんでした。ミサそのもののため……とか?

 

 

 

女の子_うきわ

美沙……神自身ではないでしょうか。聖堂は信者さんたちが神と出会うための場なのですから、何よりも神への配慮があの印象深い沈黙を醸し出しているのだと思います。もちろん、それがあったうえでの信者さん同士の配慮もあるでしょうが。

 

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答五郎……深いことを言っているよ、これは! ミサの時、ミサの場の根底に流れている沈黙を意識して考えていくことは大事だよ。われわれ信者でさえ、しばしば見過ごしてしまうのだが。やはり、あることに方向づけられた上での沈黙という点が大事だね。散漫とした空っぽの沈黙ではなく、充実した沈黙、緊張感ある沈黙、根底をなす沈黙というべきか。

 

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問次郎……そう、それです。聖堂の聖なる雰囲気のもとは、そんな沈黙なのですね。

 

 

 

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答五郎……さて、そこで、ミサそのものが始まるのだが、『ミサ典礼書』の式次第の始まりは、こんな注記だ。「1 入祭の歌と行列 会衆が集まると入祭の歌を歌う。その間に司祭は奉仕者とともに祭壇へ行く」。その瞬間のことを思い出してみよう。

(つづく)


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