スペイン巡礼の道——エル・カミーノを歩く 1


古谷 章

 私と妻の雅子はスペインのエル・カミーノ(巡礼の道)を2015年と16年に2年続けて歩いてきた。「聖地」サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す道はいくつかあるのだが、その中で最もポピュラーな「フランス人の道」約800kmのうち、昨年7月はレオンから最後の300km余を、今年の9月には一般的な出発点と言われるフランス側のサン・ジャン・ピエ・ド・ポーからブルゴスまでの約300kmを歩いた。

 昨年は私たちの登山仲間である広瀬光一、平野裕也両氏と4人で歩いたのだが、今年は都合が揃わなかったため、私と妻の2人で歩いてきた。ただ残念なことに、ちょうど真ん中のブルゴスからレオンまでの約200kmを歩き残してしまったことが気になっている。

 登山を趣味とする者がなぜ巡礼の道を歩くのかと問われそうだが、自然の中を歩くという意味では同じことであり、いわば「垂直」か「水平」のどちらを目指すのか、という違いなのだ。やや暴論気味に言えば、エベレストですら10kmと登るわけではないが、スペインの大地を800km歩くことはまた別の意味で面白さがあるのだ。そんな思いで行ったのだから、「巡礼をした」のではなく「巡礼路を歩いた」と言うほうが正確だろう。しかし、宗教心の薄い私たちでもキリスト教に支えられた巡礼路の重み、それもイスラムとの相克の中で積み重ねられてきた歴史や文化には大いに心を揺さぶられたものだった。

 昨年の記録は平野氏が、今年の記録は私がまとめたのだが、いずれも私たちの所属する山岳会内の年報に載せるために書いたものなので「内輪向け」の感は免れず、記載に至らぬところがあるのはご容赦願いたい。しかし、平均年齢60歳代半ば以上の中高年が楽しんできた珍道中を読んで、自分でも歩いてみようと考える方がいらっしゃれば、とてもうれしく思う。

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