アルフレッド・ヒッチコックという映画監督をご存じでしょうか。ミステリー映画の巨匠として知られている人で、数々の作品が今も多くの人に観られています。50代以上の人には強く印象に残っているでしょうが、毎週「ヒッチコック劇場」というテレビ番組がありました。いかにも外国人といった太ったおじさんが出てきて、ミステリー作品を紹介するものでした。テレビの中でのヒッチコックの声は、熊倉一雄氏で、その特徴的な声も印象が強いものでした。
さて、今回ご紹介する映画は、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手として注目されたフランスの映画監督フランソワ・トリュフォーから送られた手紙に端を発しています。1962年の春、ヒッチコックに「あなたが世界中で最も偉大な監督であると、誰もが認めることになるでしょう」という宣言入りの手紙を書き、それにヒッチコックが応じたことで実現したインタビューを本にした『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』があります。この本、実は映像制作にかかわる人たちにはバイブルのよ
うにあつかわれている有名な本だそうです。その録音テープが発見されたことで実現したドキュメンタリー映画です。
録音テープとインタビュー時に撮影された写真をもとに、映画が構成されています。そのインタビューの内容をより深く理解するために、マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、ウェス・アンダーソン、ジェームス・グレイ、ポール・シュレイダー、オリヴィエ・アサイヤス、ピーター・ボクダノヴィッチ、アルノー・デブレシャン、リチャード・リンクレイター、そして日本からは黒沢清といった10名の映画監督がヒッチコックの映画手法について語っています。
トリュフォーの質問にていねいに答えるヒッチコックの姿勢とともに10名の監督がヒッチコックの映画手法を読み解くことは、映画ファンなら心躍るものがありました。
心に残った言葉があります。トリュフォーが「あなたはカトリック信徒ですか」という問いに対して、ヒッチコックは間髪を入れず、録音をとめるようにと言います。そうして、ヒッチコックの映画の画面が次々に出てくることで、やはりカトリック信徒なのだろうと推測できます。
この映画を見ると、ヒッチコックの作品をもう一度すべて観てみたいと感じる映画でした。