ONODA 一万夜を越えて


1974年3月、大学3年生だった私は、日本に帰還した小野田寛郎(51歳)さんをテレビのニュースで見ていた。「まだ日本兵が生きていたんだ」という驚きと共に「なぜ戦後30年近くも経って現れたのか」が不思議だった。

それからは小野田さんについてのことがさまざまに知らされたが、戦争が生んだ悲劇というそれまでの考え方とは、どこか違う視点を与えられたような思いがしたものであった。この映画は、私のそうしたことを改めてなぞってくれることになった。

 

映画のあらすじは、次のように説明される。

終戦間近の1944年、陸軍中野学校二俣分校で秘密戦の特殊訓練を受けていた小野田寛郎(遠藤雄弥/津田寛治)は、劣勢のフィ リピン・ルバング島にて援軍部隊が戻るまでゲリラ戦を指揮するよう、命令を受ける。「君たちには、死ぬ権利はない」出発前、谷口教官(イッセー尾形)から言い渡された最重要任務は“何が起きても必ず生き延びること”であり、玉砕は決して許されなかった。

しかし小野田を待ち構えていたのはルバング島の過酷なジャングルだった。食べ物もままならず、仲間たちは飢えや病気で次々と倒れていく。それでも小野田は生きるために、あらゆる手段で飢えと戦い、雨風を凌ぎ、仲間を鼓舞し続ける。必ず援護が来ると信じての行動だった。

小野田は仲間を連れて、任務を完遂するまで島の奥地に潜伏する。終わりのない戦いの日々に自らの精神をも蝕まれながら、かろ うじて仲間のために、見えない敵に対峙していた。

小野田と一緒に最後まで生き残った小塚金七(松浦祐也/千葉哲也)は、小野田とたびたびいさかいを起こしながら、それでも協力し合い、相手を思いやり、二人三脚で生死を彷徨いながら潜伏していた。しかしある日、小野田と小塚は島民らしき人間たちから奇襲を受け、小塚は小野田の目の前で帰らぬ人となってしまう。

 

 

 

 

 

そこから小野田は一人きりで生き延びる。

孤独の中で息を潜めていた小野田だったが、ある日、“旅行者”と名乗る若い男・鈴木紀夫(仲野太賀)と出会った。小野田が見えない敵と戦い続けて一万夜を迎える頃、この青年との出会いによって終わりを迎えることになった。

 

陸軍中野学校で谷口教官から「自分自身が自分の教官だ」と教えられた言葉は、秘密戦の任務を受けた人間にとって、孤独と戦う ときの支えだったのだろう。ジャングルでの戦いのなかで、小野田は日記を書き続ける。そして、銃を片時も離そうとはしない。4人になってからの集団生活をするなかでも、小野田は沈着冷静に仲間たちの動向を見据える。そうした描写は、戦争が原因での彷徨生活なのだが、なぜか現代の人間へ「生きる」ことの本質を訓示しているようにも感じてしまう。

旅行者の鈴木に遭った小野田は、日本へ帰るように説得する鈴木に、日本へ帰還するための条件を話す。それは、元上官の谷口による直接の任務解除命令が必要だということだった。軍隊のなかでは命令系統によってしか自らの行動を起こせない兵士の宿命を思ってやるせない。

谷口が読み上げる命令を面前で受け、任務解除を認識し、銃から弾を抜き去る小野田の姿に、戦争に敗けた日本兵の哀愁を感じて涙を禁じえなかった。

鵜飼清(評論家)

 

10月8日(金)全国公開

公式サイト:https://onoda-movie.com

 

STAFF

監督:アルチュール・アラリ/脚本:アルチュール・アラリ、ヴァンサン・ポワミロ/プロデューサー:ニコラ・アントメ/撮影監督: トム・アラリ/編集:ローラン・セネシャル/美術:ブリジット・ブラサール/衣装:カトリーヌ・マルシャン、パトリシア・サイーヴ/サウンド:イヴァン・デュマ、アンドレアス・イルドブラント、アレク・“ビュニク”・グース

CAST

遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、カトウシンスケ、井之脇海、足立智充、吉岡睦雄、伊島空、森岡龍、諏訪敦彦、嶋田久作、イッセー尾形

 

制作:bathysphere productions/配給:エレファントハウス/宣伝:フリーストーン

2021映画『ONODA』フィルム・パートナーズ:CHIPANGU 朝日新聞社ロウタス

助成:文化庁文化芸術振興費助成金(国際共同製作映画)

後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

174分/フランス、日本、ドイツ、ベルギー、イタリア/ 2021/1.85/5.1

©bathysphere - To Be Continued - Ascent film - Chipangu - Frakas Productions - Pandora Film

Produktion - Arte France Cinéma


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