微笑みの天使に勇気づけられて―姉と過ごしたフランスでの1週間―


松橋輝子(桜美林大学非常勤講師、東京藝術大学大学院音楽研究科博士課程)

コロナパンデミックにあって、人々は自由に海外旅行をすることができない。こんな日が来ることをおそらく誰も想像していなかっただろう。今のわたしにとっての最後の海外旅行は、2019年9月、コロナ前のこと、姉とのフランスの旅である。姉の仕事に同行する形で、わたしは1週間ほどフランスで過ごした。幸い晴天にも恵まれ、オペラを観たり、パリ管弦楽団の演奏を聴いたり、美術館へ行ったり、教会で御ミサに与ったり、おいしい食事を堪能したりと、これ以上にないほどの充実した1週間であった。

姉(左)と筆者(右)。パリ、シャンゼリゼ通りで

その中でも半日を過ごしたランスでの思い出をここに記したい。シャンパーニュ地方に位置するランスは、パリから電車(TGB)で一時間弱の所に位置する。ランスの駅を降りたってみると、そこの空気は閑静で穏やか、パリのそれとは全く異なるものだった。

まずは、ノートルダム大聖堂へ。見事なステンドグラスに囲まれた、圧巻のゴシック建築であった。中世音楽史の中でも有名な作曲家ギョーム・ド・マショーは、『ノートルダムミサ曲』をこの聖堂で演奏するために作曲したという。その作品の響きがまさに聴こえてくるようであった。建築の素晴らしさもさることながら、わたしの心を鷲掴みにしたのは、教会入口にいくつも並ぶ彫像の一つ「微笑みの天使」と呼ばれるものである。その天使の表情が心に響き、まるでガッツポーズをしているかのようなその手には、自分の中に勇気を与えてくれる、奮い立たせてくれる力強さを感じた。

ランスまで足を運んだのにはもう一つ理由があった。それは、「フジタ礼拝堂」と呼ばれる、藤田嗣治(1886~1968)が設計、デザインした礼拝堂を見るためである。フランスで活動していた藤田は1959年にランスのノートルダム大聖堂でカトリックの洗礼を受けた。その後、壁画、ステンドグラスなどこの礼拝堂のすべてを設計した。

壁全体を覆う宗教画にはキリストの生涯が描かれているが、そこには、紆余曲折のあった彼の人生の最終章ともいうべき信仰心に清められたような純粋さを見出すことができた。この作品が、藤田のもっとも本質的なものに触れたのではと感じた。私たちが訪れた時には、ちょうど子供たちが先生に連れられて、礼拝堂を見学していた。壁画を指さしながら、キリストの生涯を子供たちに説明している先生と子供たちの風景に、心が温かく感じたことを覚えている。これこそが藤田描いた宗教画が引き出したものではないだろうか。

ランスはシャンパンの中心地として知られていることもあり、もちろん、シャンパンメゾンをめぐって、醸造所を見学、そしてそのお味を堪能することも忘れなかった。きりっとした味わいや、熟成もののフルーティーな味わい、醸造所ならではのお酒を楽しんだこともまた、味覚で刺激されたランスの旅の一コマである。

パリでは、パリ管弦楽団の本拠地フィラルモニ・ド・パリや、パリのオペラ座での素晴らしい演奏は耳から、そして美術館めぐりでは様々な芸術を目からと、五感に刺激的な時間の中で体中が満たされたと感じた。特に印象的なのは、オルセー美術館での特別展、ベルト・モリゾ(Berthe Morisot, 1841~1895)の作品だ。モリゾは、女性印象派画家であるが、女性ならではの視点、タッチのやわらかさ、そして自然な日常を切り取ったような作品があり、他の多くの印象派画家の中でも、際立ってわたしの心を満たした。

一日に3万歩も歩いた日があるほど、足でパリを最大限に満喫した旅は、今でも写真を見返すとその情景が蘇る。姉妹で過ごす時間としても幸せな時間だったと思う。

なお、昨年の緊急事態宣言中、外出がままならぬ中、フランス作曲家の作品を演奏し、パリへの思い出の写真とともに動画を編集したので、ぜひご覧ください。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

seventeen + eleven =