アート&バイブル 77:洗礼者ヨハネの説教


バッキアッカ『洗礼者ヨハネの説教』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

主の洗礼の祝日(2021年は1月10日)に登場する洗礼者ヨハネを描く作品を紹介します。

作者のバッキアッカ (Bacchiacca または Bachiacca, Bacchiaccaなど。生没年1494~1557)は、フィレンツェで生まれ、本名はフランチェスコ・ウベルティーニ(Francesco Ubertini)といいます。ペルジーノ(Perugino, 1448頃~1523)の弟子といわれており、その折衷主義的な手法は、後のアンドレア・デル・サルト(Andrea del Sarto, 1486~1530)に大きな影響を与えたともいわれています。バッキアッカの作品は宗教的なテーマが多く、また壁画や家具、タピストリーの原画なども手掛けたといわれています。

ルカ福音書3章1~18節によると、洗礼者ヨハネは、ヨルダン川沿いの地方に現れて説教を始めます。「蝮の子らよ、差し迫った神の怒りを免れると、だれが教えたのか。悔い改めにふさわしい実を結べ。『我々の父はアブラハムだ』などという考えを起こすな。言っておくが、神はこんな石ころからでも、アブラハムの子たちを造り出すことがおできになる。斧は既に木の根元に置かれている。良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる。」

群衆が「わたしたちはどうすればよいのですか」と尋ねると、ヨハネは、「下着を二枚持っている者は、一枚も持たない者に分けてやれ。食べ物を持っている者も同じようにせよ」と強い調子で答えます。

そんな説教をするヨハネのことを、民衆は「もしかしたらメシア(救い主)ではないか」と思い始めます。すると、ヨハネは「わたしはあなたたちに水で洗礼を授けるが、わたしよりも優れた方が来られる。わたしは、その方の履物のひもを解く値打ちもない。その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる」と、イエスの現れを予告するのです。

 

【鑑賞のポイント】

バッキアッカ『洗礼者ヨハネの説教』(1520年 油彩板画 ブタペスト美術館所蔵)

(1)この絵の中心にはラクダの毛衣を着て、赤いマントで下半身を覆っている姿で洗礼者ヨハネが描かれています。ルカ福音書の3章19節には、早くもヘロデが洗礼者ヨハネを捕え、牢獄に入れたことが記されています。この赤いマントは洗礼者ヨハネの殉教を暗示しているのかもしれません。

(2)数多くの人物が描かれていますが、ヨハネの(向かって)左側に座っている人物たちは、ターバンのようなものや飾りのついた帽子を被っています。ヨハネに「蝮の子らよ」と、非難されたファリサイ人や律法学者たちかもしれません。

(3)この絵で最も興味を惹かれるのは、子どもたちが数多く描かれていることです。ヨハネの足もとで無邪気に戯れる二人の姿をはじめ、そのすぐ隣には聖母子のような母と子、その他にもいたるところに子どもたちが描かれています。これらの子どもたちは、イエスによって呼び集められる神の家族の象徴かもしれません。

(4)さらに、どのグループの人物たちも、背の高さが皆同じであることも面白いと思います。

 


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