齊藤一子(養成塾代表、前清泉小学校校長)
そのスタートのきっかけとなったのは、2007年に行われた『第16回カトリック学校校長教頭合同研修会』でした。この研修会の責任者であった故中尾正信先生(当時、聖マリア小学校校長)は、長年続くこの会を単発の恒例行事として終わらせることなく、カトリック学校のこれからを考えていかれる会にしていきたいとの願いから、かつてカトリック学校教育委員会の責任者でいらした森一弘司教様にご相談され、この会の基調講演を依頼されました。
その時の講演は①「カトリック学校のアイデンティティの危機について」②「カトリック学校の目指すもの」でした。その中で現代のカトリック学校の抱える問題点(修道会の後継者不足、創立者の精神をどう受け継ぐのか、社会や行政の要請に応えないと学校が財政難に陥る現実、学校の教育力を高めるにはどうするか、等等)の指摘と本来のカトリック学校の役割(生きていく力を与える場、各々が持っている可能性を開花させるのを助ける場、真の価値を伝達する場)についての貴重な提案がありました。
司教様からの講演を受けて、参加されたカトリック学校の校長先生、教頭先生方の一番の悩みとして挙がった課題が「カトリック学校のカトリックらしさを受け継いでいくための先生方の養成」ということでした。この具体的な要請後すぐに中尾先生と有志の先生方による実行案検討グループが出来、1年間の準備期間を経て『カトリック学校に奉職する教職員のための養成塾』が立ち上がりました。カトリック学校のカトリックらしさの継承の危機を克服し、カトリック学校を日本社会の中で生きる子どもたちに生きる喜びと希望の光を伝える活力のある場とするために、信念と情熱をもった、ひとりでも多くの教職員を養成する機関の設置が必要であるとしてうまれたのです。
この養成塾の一番の特徴は、どこの組織にも属さず、完全に自らの志によって集まった先生方の自主的な運営によって進められているということです。熱い思いばかりでなんの後ろ盾も資金もないこの塾がどのように学校長や理事長に受け入れていただけるのか不安いっぱいのスタートでしたが、第1回の募集には33名(1期生)の先生方の応募があり、参加校からは寄付も頂きました。ドキドキのスタートでしたが、この3月には11期生が卒塾され、11年間に447名の先生方と共に学び合うことができました。本当に大きな感謝です。
養成塾のプログラムは年間18回の講話と2回の合宿に継続して参加することが原則となっています。講話の内容は「今日のカトリック学校の課題」というテーマから始まり、前半はキリスト教の理念(宗教理解、創世記における人間理解、イエス・キリストにおける人間理解、教会)を学び、後半には学校現場での児童生徒とのかかわり方、保護者とのかかわり方、カトリック学校の宗教教育へと学びを進めていきます。
講話の後は必ずグループに分かれての「分かち合い」がおこなわれます。分かち合いとは各自の思いや感情の伝達、受容を意図した話し合いで「言い放しの聞き放し」をモットーとして、先ず思いを聞き合うことを大切にしています。そして自分の感情や思いに焦点を当てることで、本音に気づくことができ、本音にこそ現実が反映されそこから実質的な実りある話ができると考えています。
講話を担当するのは、司祭、シスター、そしてスタッフであるカトリック学校の先生方が行っています。司祭、シスター方は別としてスタッフの先生方は専門家ではありません。担当したテーマについてどのように伝えたらよいのか、自分の置かれた立場での経験から理解している範囲で語ります。ですから参加している先生方と同じ立場で一緒に分かちあっているのです。
グループは5〜6人で組まれて、毎回入れ替わるので初めは初対面の先生方でも回を重ねるごとに互いを知り合い、自校での人間関係から解放されているので普段心に思いながらもなかなか口に出せないことなども素直に共有できる場にもなっています。
現在まで参加されたカトリック学校は関東地区を中心にして小中高で約37校になりました。遠くは福岡や八戸、福山、会津若松、郡山、長野、浜松、静岡などからも送ってくださる学校もあり、養成塾への理解と期待の賜物かもしれません。
最後に養成塾がめざすものを各校に配布している趣意書からの一部を記載いたします。