アート&バイブル 47:トマスの不信


レンブラント・ハンメルス・ファン・レイン『トマスの不信』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

この絵は、ヨハネ福音書20章19~31節に記される出来事を描くものです。復活したイエスの二度目の出現で、トマスの不信と呼ばれるエピソードが語られるところです。作者はオランダで最も有名で偉大な画家とよばれるレンブラント(Rembrandt Harmenszoon van Rijn, 生没年1606~69)です。彼は1606年、裕福な製粉業者の息子としてライデンに生まれ、1624年にはピーテル・ラストマン(アート&バイブル46参照)のもとで絵の修業に励みます。『夜警』を代表とする陰影・光を巧妙に表現し、写真のような印象を与える描き方が特徴です。若い頃から家庭生活や画業の点でも成功を収めますが、晩年は妻や子どもに先立たれたり、破産宣告を受けたりして、しだいに深い内省をこめた作品を残しました。

ヨハネ福音書20章19~29節が語られるのは次のような出来事でした。週の初めの日の夕方、(復活した)イエスが来て弟子たちの真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言いながら、手とわき腹とを見せます。弟子たちが喜ぶと、イエスは重ねて言います。「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす」。そう言って彼らに息を吹きかけて言いました。「聖霊を受けなさい。だれの罪でも、あなたがたが赦せば、その罪は赦される。だれの罪でも、あなたがたが赦さなければ、赦されないまま残る」。

すると、イエスが来たときに一緒にいなかったトマスに、ほかの弟子たちが「わたしたちは主を見た」と言うと、トマスは「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない」といいました。

その八日後、弟子たちはまた家の中にいて、そのときはトマスも一緒にいました。戸にはみな鍵がかけてあったのに、再びイエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言い、トマスにはこう言います。「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。また、あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい」。トマスはそれに答えて、「わたしの主、わたしの神よ」と言いました。するとイエスはトマスに言うのです。「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである」と。

 

レンブラント『トマスの不信』(1634年、油彩、53×51cm、モスクワ、プーシキン美術館所蔵)

【鑑賞のポイント】

(1)光にあふれたイエスは周囲の闇を討ち払います。そして、衣服を上げて、傷跡の残る肌をトマスに見せ、傷口にふれるようにと言います。トマスはおののき、のけぞるような姿で驚きと自分の不信を恥じています。

(2)他の弟子たちの姿も興味深いものがあります。画面右下の二人はイエスの傷ついた体を見ることが悲しいといわんばかりに顔を伏せています。手を合わせながら拝もうとしているようにも見える弟子も描かれています。さらに不思議なことに、ここには弟子が13人描かれています。もしかするとエマオから戻ってきた二人が加わっているのかもしれませんね。

 


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