タクシー運転手−−約束は海を越えて


光州事件をご存じでしょうか。1980年5月 18日から 10日間、韓国の全羅南道、光州(クアンジュ)市で起こった学生・市民による暴動事件です。 1979年 10月 26日朴正煕(パク・チョンヒ)が暗殺されてから、韓国国内で民主化要求の動きが活発化していきます。 12月 12日の「粛軍クーデター」で権力を握った全斗煥(チョン・ドファン )少将を中心とする若手将軍グループが1980年5月 17日に戒厳令の全国拡大を宣布し、金大中(キム・デジュン)ら 与野党の大物政治家を逮捕するなどして民主化の動きに歯止めをかけようとしました。その直後光州市で起こった街頭デモが戒厳軍部隊と衝突し、戒厳軍部隊の手荒な対応もあって激昂した市民の一部は武器を手に対抗したことによって、市内で銃撃戦が行なわれ、多数の死傷者が出たという事件です。

当時日本ではほとんど報道されていなかったので、ご存じない方も多いかもしれません。かくいう私も韓国で戒厳令が敷かれているという記憶はあっても、ほとんど覚えていない状況です。今回ご紹介する映画はこの光州事件を追ったドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターの活動を追った「タクシー運転手−−約束は海を越えて」です。

1980年5月、11歳の娘を男手一つで育てているタクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は、ソウルで、学生のデモに出会い、「何のために大学に行っているのか」と文句を言っています。人がよく、稼ぎの少ない運転手は家賃をため、大家である会社の上司の妻から嫌みを言われる始末です。

東京の外国人記者クラブ近くのレストランでドイツの公営放送のアジア特派員ユルゲン・ヒンツペーター(通称ピーター、トーマス・クレッチマン)は、韓国の光州に入った記者と連絡が取れなくなっていることを知り、記者の身分を隠し、韓国のソウルに行きます。

ある日、マンソプはその上司に家賃を払うために借金を申し込んでいる最中、ドイツ人記者が光州に往復することで10万ウォンの報酬を得られるという話を聞き込み、仲間を出し抜いて待ち合わせ場所に行きます。

サウジアラビアの建築現場で覚えたという貧弱な英語で必死に話しかけますが、ピーターは迷惑顔です。何としても報酬がほしいマンソプは、機転を利かせ何とか光州に辿り着きます。そこには壮絶な現場が待っていました。「危険だから戻ろう」というマンソプの言葉には耳を貸さず、ピーターは、大学生のジェシク(リュ・ジュンヨル)とタクシー運転手ファン・テスル(ユ・ヘジン)の助けを借りて撮影を始めます。しかし、状況は悪化するばかりです。マンソプは、ソウルにいる娘のことが気にかかり、連絡を取ろうとしますが、光州は、電話も遮断されている状況です。

ここからは映画を観て下さい。ジェシクやファンの運命は。無事に二人はソウルに戻れるのか。実際に起こった事件と、後にドキュメンタリー『岐路に立った大韓民国』という番組を発表したユルゲン・ヒンツペーターの作品を基に描かれたこの作品は、戒厳令下の非常な状況を如実に表しています。そして、ピーターとマンソプの関係も言葉を超えたものになっています。本当に起こった事件を忠実に再現し、軍部の非常な行為に恐怖さえ感じるものになっています。政治が強権を振るう恐ろしさを感じるほどです。

中村恵里香(ライター)

■2018年4月21日(土) シネマート新宿ほか全国ロードショー
公式ホームページ http://klockworx-asia.com/taxi-driver/
監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル

2017年/韓国/137分/原題:택시운전사/配給:クロックワークス/提供:クロックワークス・博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
配給:クロックワークス

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