釜ヶ崎、こどもの里、そして映画『さとにきたらええやん』


伊藤淳(カトリック清瀬教会主任司祭)

『さとにきたらええやん』は愛おしい映画です。

舞台は大阪市西成区の釜ヶ崎。職を求める日雇い労働者と求人を代行する手配師が、ともに多数集まる「寄せ場」として発展してきた街です。

釜ヶ崎の様子

ドヤ街も形成されています。「ドヤ」とは簡易宿所「やど」の倒語です。日雇いといっても、数日から数ヶ月単位で雇われ、飯場で寝泊まりしながら働く場合も多いので、自宅を持たず、釜ヶ崎に戻った時だけドヤに宿泊するほうが経済的だったりするのです。

好景気だと求人も多く、雇われるチャンスが増えますが、景気が悪くなると選別が厳しくなります。屈強な若者から先に雇われるので、怪我人や年配者は仕事にあぶれ、やがて所持金が無くなるとドヤに泊まることができなくなりますが、仕事を得るためには釜ヶ崎に留まるしかなく、結果として野宿を強いられることになります。釜ヶ崎がホームレスの街でもある所以です。

野宿者のために、カトリックをはじめ数多くの支援団体が炊出しや夜回りなどの活動を展開し、行政もそれなりの対策を求められているので、他所と比べればまだマシと言えるのかもしれませんが、そのような環境を頼って、様々な困難を抱えた人々が、さらにまた釜ヶ崎に集まってくる結果にもなっています。

最近では、日雇い労働者や野宿者も高齢化が進み、それに対応して釜ヶ崎も生活保護の街に変貌しつつあります。ドヤの多くは、福祉アパートや外国人観光客用安ホテルに改装されています。

そんな街、釜ヶ崎に「こどもの里」はあります。

釜ヶ崎のこどもたちに健全で自由な遊び場を提供したいとの思いから、前身の「子どもの広場」がスタートしたのは1977年のことでした。集まってきたこどもたちの背後にあるのは、生活の不安定さであり、親が抱える社会的な問題の大きさでした。

基本的な生活習慣を身につけさせ、こどもの生活権を保障し、住まいを確保するなど、こどもが生きていくことへの手助けから始められた活動は、やがて、借金や家庭内暴力から逃げてきた、行き場のないこどもや親の緊急避難場所となっていきます。

1980年、現在の場所に「こどもの里」が開かれ、こどもが安心して遊べる場の提供と生活相談を中心に、常にこどもの立場に立ち、こどもの権利を守り、こどものニーズに応じることをモットーに、活動が続けられてきました。

その後、事業の移行や拡大、事業主体の変更などを経た「こどもの里」ですが、こどもたちが抱えるしんどさ、生きづらさは軽減していない、放課後のこどもたちの行き場だけでなく、生活の場としてのニーズはむしろ高まっているとして、0歳から18歳までのすべてのこどもたちが利用できる遊び場、居場所を守っていく活動を、24時間フル回転で続けているのが現状です。

映画『さとにきたらええやん』は、そんな釜ヶ崎の、そんな「こどもの里」に身を置く三人のこどもを中心に、こどもたちと館長の荘保共子さんをはじめとするスタッフや街の人々とのかかわりを、丁寧にすくい取ったドキュメンタリー作品です。重江良樹監督はボランティアとして「こどもの里」に通い、7年もかけてこの映画を完成させているので、登場人物は誰もが飾り気のない自然な姿をカメラの前に晒していますが、それゆえに、「こどもの里」を必要とするこどもたちの生きづらさ、その親たちのしんどさが赤裸々に表出されていて、観る者に重い問いを突きつけてきます。

しかし、この映画にはまた、彼らのしんどさ、生きづらさにとことん寄り添い、包み込み、なんとか助けになろうとするスタッフやこどもたち同士の愛が滲み出ています。そして、そのような愛に包まれ、支えられ、励まされて、厳しい現実をなんとか乗り越えようと前を向くこどもたちの生きざまとそのエネルギーに、私たちも希望を見出し、そのおすそ分けに与ることになるのです。

社会の現実を突きつけられ、立ち止まって考えさせられると同時に、ほっこりと優しい気持ちにされ、再び前進する力を与えられる映画、それが『さとにきたらええやん』です。

必見!

 

【映画スタッフ】

監督・撮影:重江良樹
音楽:SHINGO★西成
プロデューサー・構成:大澤一生
編集:辻井潔
音響構成:渡辺丈彦
制作協力:神吉良輔(ふとっちょの木)、五十嵐美穂、上田昌宏、吉川諒
機材協力:ビジュアルアーツ専門学校大阪
特別協力:小谷忠典
助成:文化庁文化芸術振興費補助金
企画:ガーラフィルム
宣伝・配給協力:ウッキー・プロダクション
製作・配給:ノンデライコ
2015|日本|100分|カラー|16:9|5.1ch|DCP

公式サイト:http://www.sato-eeyan.com/

 

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