新しいメディア・ミニストリー——ネット民のうつ病と自殺願望に対して


2017年10月31日に報道された座間市で9人の遺体が発見された事件は、全国を震撼させた。被害者はいずれも犯人とSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のツイッターを通して繋がったことが明らかとなっている。9人の大半はツイッター上に「死にたい」「いっしょに死んでくれる人を探している」などと、自死願望をほのめかす投稿をしていたと報道されている。

各種SNS運営会社は従来からさまざまな対策を立てて来てはいるが、このような書き込みはこの事件後も後を絶たない。本来相談するべき相手ではなくネットの世界に本音を吐露する若者たちの姿勢には、実際の社会や大人たちが信頼を失ってしまった感すら覚える。今回の事件は、それが悪意ある人間と繋がってしまったことによる悲劇だ。

シグニス・アジアは従来からメディア教育やインターネットリテラシーに精力的に取り組んでいる。日本の自死件数や割合は、他のアジア各国とは桁違いに深刻だが、シグニスは現代の問題意識を共有している。折りしも、シグシス・フィリピンのメンバーより、今回の特集にふさわしい記事をシェアしていただくことができた。ここに翻訳して公開することで、若者が抱える闇と、教会のSNSに対する見方を合わせて考え、さらなる問題点の追求と解決に向かう契機としたい。(編集部)

 

 

新しいメディア・ミニストリー
ネット民のうつ病と自殺願望に対して

ペリー・ポール・G・ラメニラオ

2017年11月、ダバオ出身の19歳の学生が自室で首を吊った状態で発見された。人間関係や家族の問題など、挫折を書き綴ったノートを残していた。死の2日前、自身のツイッターに自殺願望などの書き込みを何度か投稿していた。

うつ病と自死の試みについての彼の投稿は、若い人々のうつ病と自死が深刻な問題となったことを示している。

10代のうつ病の割合が伸びていることが調査で明らかとなっているが、恥ずかしさや人に助けを求めることへの恐れが、医学的なサポートを受けることへの妨げとなっている。

世界的な規模で、自死は深刻な社会問題となってきた。

WHO・世界保健機関の最新の発表によれば、1年間に約80万人の人々が自死によって命を落とし、15歳から29歳までの若者の死因の第2位となっている。

フィリピンでは、2012年の報告が明らかにしたところによると日々7人が自死している。2時間半から3時間に1人が自死するという恐ろしい数字だ。フィリピン総合病院の中毒管理センター(NPMCC)は2012年の自死者を推定2,558名と報告している。

同年、世界保健機関の報告により、フィリピンにおけるうつ病の発生率がASEAN諸国では最高であることが示された。その数、推計で450万人である。また世界保健機関の調査は、その前年の13歳から15歳までの生徒の16パーセントが「真剣に」自死について考え、13パーセントが実際に自死を企てたとしている。

 

抑圧される若者

フィリピン中毒管理センター(NPMCC)の同じ報告によると、2010年以降の統計で全自死者の46パーセントが若者だった。30パーセントは20歳から35歳だが、16パーセントは10歳から19歳で占められることになる。

2016年、フィリピン大学の学生トリスタン・ユビエンコはマニラの学生のうつ病についての調査を行った。複数の大学などから16歳から24歳までの生徒や学生135人について調査したところ、96パーセントの参加者がいずれかの強度の抑うつを学校で感じた経験があると答えたという。さらにこの調査は、勉強や研究が抑圧された感情をもたらす最大の原因であることを明らかにした。なおその他の要因として、これに家庭の問題と人間関係が続く。

ユビエンコの研究はまた、抑うつを感じた生徒学生の50パーセントは友人や家族に理解されていないと感じていることを明らかにした。この、最も抑うつを感じる学生たちが身近な人から共感をまったく得られていないと感じている、というのは重要な調査結果だ。共感が得られないことが、うつ病をいっそう悪化させる。この調査によって、専門家は彼らに対してより効果的に対応していけるようになるだろう。

 

教会のメッセージ

教皇ベネディクト16世は第47回世界広報の日に寄せて、デジタル・ソーシャル・ネットワークの発展が「人々が自分の考えや情報、意見を分かち合い、そして共同体の新しい関係性や形態が生まれ出る開かれた公な広場を創造する」ことの役に立っていると述べた。インターネットは、管理されていない空間ではあるが、「真のコミュニケーション、つながりが友情へと熟し、結びつきが一致を促す」。フェイスブックやツイッターのようなソーシャルメディアは、指一本で思想や考えや情報をシェアするだけの開かれた空間にとどまらず、究極的に自分自身をむき出しにする機会でもある。

「ソーシャル・ネットワークは人間の相互作用の結果だが、ネットワーク自体も、関係性を作るコミュニケーションのダイナミックさを作り直す。したがって、いろいろ考えた上でこの環境をしっかりと理解することが、そこでの存在感のためにまず欠かせない」とベネディクト16世は付け加える。

言語学者、心理学者や科学者によれば、わたしたちがソーシャルメディアでシェアするものが精神の健康状態のシグナルとなるという。フォーラーとクリスタキスによる有名な研究「影響の三段階」”Three Degrees of Influence”は、ソーシャルメディアが、行動に影響する感情や潜在的なシグナルを3段階で伝達することを明らかにした(第1段階:友達、第2段階:友達の友達、第3段階:友達の友達の友達)。わたしたちがソーシャルメディアを通して言ったりやったりすることは大なり小なりさざなみを立てるのである。
個人にとって、ソーシャルメディアは自死願望や行為、意思を吐露する場になってしまった。自死願望は、往々にして、逃れがたく耐えがたい痛みを伴い、終わらない問題の解決に対して無力感を感じるときに湧き起こる。

しかし自死願望をシェアすることは孤立感を和らげることもあり、ソーシャルメディアのような開かれた場で取り上げるならば、むしろ援助が差し伸べられる。フェイスブックやツイッターに自死願望が投稿されることは介入を必要とするという危険信号だ。

2016年、フェイスブックは自死願望やその実行について投稿する友達を救助するための重要なツールをアップデートした。フェイスブックは報告機能も含めた総合的なツールを用意した最初のソーシャルメディアである。

 

新しいメディアミニストリー

ソーシャルメディアは、新しいメディア・ミニストリーの場である。グローバルウェブインデックスが16歳から64歳までのインターネットユーザーに対して2016年下半期に調査したところによれば、パソコンかタブレットでインターネットを利用していた時間は1日平均9時間。普通の人の睡眠時間を優に超えている。しかも、スマートフォン端末によるインターネット利用はさらに1日平均3時間36分に及ぶ。

このデータは、ソーシャルメディアがミニストリー(奉仕職)において役に立つものにできるものであることに気付かせる。ソーシャルメディアは、すべての人に声を与える。すべての人にとって、そこは家族や友人、関係者とつながることのできる巨大な空間である。
ソーシャルメディアをフルに使って世界中の人々とつながったり関わっている間に、彼らは他者との経験をオンラインでの経験として形成する。

ヨハネ・パウロ2世によれば、インターネットは新しい「フォーラム」である。そこでは宗教的義務が果たされ、都市の社会的生活の大半が行われ、そして人間の最高もしくは最低な本性が映し出される場である。と同時に、インターネットは人間性が豊かな場所でもある。「ケーブルのではなく、人間のネットワークでもあるのだ」。しかし悲しいことには、深い思想を生み出す刺激や、理解、実際のつながり、他者との真の出会いは欠落したままなのだ。

ソーシャルメディアは、いまや世界中で人々の生活の大きな一部になっている。若い人々にとっては特にそうだ。その彼らこそ、実際の世界で愛と共感、やさしさを必要としている、まさに同じ人々なのである。

 

著者:ペリー・ポール・G・ラメニラオ
フィリピン共和国・大統領府和平プロセス担当大統領顧問事務局広報官。
カルメル会フィリピン管区メディア宣教部ティトゥス・ブランズマ・メディアセンター(TMBC)メンバー、SIGNIS Asia ジャーナリズムデスクメンバー。

訳者:石原良明(webマガジンAMOR編集部)

(原題:A 'NEW MEDIA' MINISTRY: Countering Depression and Suicidal Risk among Netiziens)

 


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