スペイン巡礼の道——エル・カミーノを歩く 32


古谷章・古谷雅子

5月27日(土) ボアディージャ・デル・カミーノ~カリオン・デ・ロス・コンデス(1)

歩行距離:25km
行動時間:7時間5分

外のテラスで簡単な腹ごしらえをして5時40分出発。6時半を過ぎれば完全に明るくなるが、その前はまだ薄暗い。前日に黄色い矢印を確認しておいたので問題なく村を出た。

平原に並木が続き朝は涼しい。25分でカスティージャ運河沿いになる。カスティージャの産物を北の港町サンタンデールに運ぶために18世紀に建設が始まったが完成することなく終わった。しかし部分的には使われてきたし今も用水路として機能している。運河に沿ってしばらく行くと複雑な構造の閘門(こうもん:運河・放水路などで水量を調節するための水門/船舶を通過させるために水をせき止めておく装置)があり、渡るとかつては宿駅として栄えたフロミスタの町に入った。人口1000人というのは巡礼路では今でも大きな町と言える。

目当てはサン・マルティン教会だ。巡礼路上の多くの教会が長い年月の中で時代ごとの改築増築により様式混在しているのだが、ここは11世紀ロマネスク様式の典型がそのまま保存されている。1904年に厳密な修復も行われているので、経年による儚い美しさはないのだが、すっきりした質実剛健なたたずまいを控えめに軽やかに見せる軒飾りやチェックのリボン様の縁飾りが好ましい。

建築様式などと書いているが、私たちの知識は赤ん坊程度だ。ただ、これまでの旅で、何も知らなかったロマネスク様式との出会いがあった。そして、村田栄一著『石も夢見るスペインロマネスク』(社会評論社、2007年)という素晴らしい手引きを得て、今回は以前の感動の正体を意識的に見てみたくなったのだ。

村田先生は「ロマネスクというのは、12世紀をその最盛期とする約千年前のこと、その規模は、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどほぼヨーロッパ全域にわたって同時多発的に展開された、教会建築とそれにかかわる美術における様式」と説明されている。

そして「ゴシック期以降の建築や彫刻と比べると、技術的に劣っていてずんぐりと低いし、壁は厚いだけでステンドグラスもないから暗いし、彫刻なども稚拙である。しかしロマネスクの造形の底に流れる美意識は、見えるものの内面の見えないものを、かたちにこだわることなく表現しようとするもので、外観無視の自由奔放な形態表現には、ただ幼稚というだけではないそれなりの美意識があった、ロマネスク建築は極めて美しく個性的で自由で幻想的である」と書かれている。巡礼路とその周辺にはこの古い建築がちりばめられているのだ。

教会を見てからいい気分でバルに入りのんびり朝食。ここから20km先のカリオン・デ・ロス・コンデスが今日の目的地だ。昨日に引き続きやや短い行程だが、それより先は17km以上宿泊施設がないのでカリオン・デ・ロス・コンデスに泊まるしかない。しかもこの町には早めに到着して是非見たいサンチャゴ教会の正面装飾がある。

また麦畑が広がる。暑くなってきた。ウシエサ川にぶつかるとパブラシオン・デ・カンポス。ここからの道は二つある。私たちは他の巡礼者の忠告通り県道を離れた静かなウシエサ川沿いの道をとった。距離は少し長くなるが、麦畑でも川沿いは美しい木立があってほっとする。「晴日暖風生麦気 緑陰幽草勝花時」(王安石)の世界だ。途中でビジョビエコの橋を渡る。さらに先に「川の聖母礼拝堂 Ermita de Virgen del Rio」という赤い煉瓦の建物がある。そこで川と離れて木陰もない畑の中を進み県道と再び合流した町がビジャル・カサール・デ・シルガだ。

この町のサンタ・マリア・ラ・ブランカ教会は圧倒的な規模で、もとはロマネスク建築だったが現在のものはゴシック様式で、さらにさまざまな時代の様式を残す。時間的な余裕があるので1人€1を納め、彫像やゆかりの王族貴族の立派な石棺がたくさんある内部を見た。

 

 

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