四旬節 名前をめぐるエトセトラ~~「四十日」が意味するもの


「四旬節」とは文字通り「四十日間の季節」。カトリック教会での名称のもとはラテン語の「クアドラゲシマ」(Quadragesima)もそのまま「四十日」。東方教会のギリシア語名称も「テッサラコステー」と同じ意味です。ラテン系のヨーロッパ諸国語もやはりこの由来を伝えています。フランス語のカレム(carême)、イタリア語のクアレジマ(quaresima)、スペイン語のクアレスマ(cuaresma)、ポルトガル語のクアレズマ(quaresma)と。ちなみにキリシタン時代の日本でもポルトガル語をもとに「クハレイズマ」とか「クハレズマ」と呼んだそうです。系統を異にするドイツ語だと「ファステンツァイト」で、直訳すると断食節。四旬節の一つの特色を名にしています。英語は少し毛色が変わっていて、四旬節のことを「レント」と言います。これは、古英語で春を意味した「レンクテン」(lencten)に由来するようです。

四旬節には、それが始まる前のカーニバルという習俗がよく知られていますね。各国でもさまざまな名前と特色をもつ行事があります。カーニバルが肉断ち前の大発散の時があるということは、四旬節が「肉断ち」「断食」の季節なのだという理解が前提にあります。

このような認識は、四旬節のことを日本の聖公会の暦で「大斎節」、ハリストス正教会で「大斎」と言うところにも感じられます。「斎」(ものいみ。「物忌み」とも)という日本の宗教伝統にある古語(漢字)とその意味(日常的行為を控え、穢れを避けること)を取り込みながら四旬節の趣旨を表現しようとしています。日本のカトリック教会でも、「斎」の字は「大斎」(充分な食事を一回にのみすること=教会でいう「断食」の意味)や「小斎」(鳥獣の肉を食すことを控えること)という形で使われています。

『荒れ野の誘惑』フラ・アンジェリコ画、フィレンツェ、サン・マルコ美術館、15世紀

ところで、古代教会での成り立ちを見ると、四旬節の趣旨は断食だけに尽きるのではありません。復活祭(復活徹夜祭)に行われる入信式(洗礼式)に向けての準備を3週間から4週間かけて行ったことや、罪を犯した信者たちが悔い改めと償いを行ったことがもとになり、それがやがて「四十日」の理念でまとめられるようになったのです。4世紀後半のことです。なぜ四十日か。それはイエスが誘惑を受けた「四十日」(マタイ2:1-11; マルコ1:12-13; ルカ4:1-13)がこの季節の模範としてて意識されるようになったからです。現在でも四旬節第1主日にこの福音書の場面が朗読されるのはそのためです。それとともに、この季節の趣旨を告げるのは四旬節の始まりの日である灰の水曜日の福音朗読(マタイ6:1-6, 16-18)です。そこでイエスは、施し、祈り、断食に臨む心を語っています。人前で目立たせるように行うのでなく、隠れたことを見てくださっている神を意識し、神に信頼しながら果たすようにと。

教会の歴史を通じて、四旬節は断食ということが目立っているかもしれませんが、それだけではない深さと広がりがあります。何よりもいのちの源である神を思い(祈り)、自分の生活ぶりを見直し(節食、節制)、神に生かされているものとしての互いのつながりを大切にし(施し・慈善)、イエスが誘惑を退けたように、神のことば、神の国のために生きよう……そんな気持ちが「四十日」という名前に込められているようです。

(石井祥裕/典礼神学者)

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