エンドレス・えんどう 3


名曲喫茶「麦」に入ると、ショパンのピアノ曲が流れていました。幾枚かの風景画は壁に掛けられ、古びたソファの置かれた店内の空間は、過去へとタイムスリップしたような感覚に誘(いざな)います。

ソファに腰を下ろし、僕は鞄の中から先ほどご主人に手渡された一枚の紙を取り出しました。それは、遠藤周作が亡くなった時にご主人が書いた追悼エッセイでした。

遠藤周作の葬儀ミサで、白い花を持ったご主人は、棺に横たわる遠藤周作の許へと歩いてゆき… その瞬間、ご主人の脳裏には遺作『深い河』の主人公であり、物語の中で神父になることに導かれていった大津が、イエスを〈玉ねぎ〉に喩えて語った言葉が響いたそうです。

【以来、玉ねぎは彼等の心のなかに生きつづけました。玉ねぎは死にました。でも弟子たちのなかに転生したのです】

ご主人の追悼文を読み終えた僕は、ひと時、想いを巡らせた後、〈作家・遠藤周作の人生の集大成である『深い河』からの伝言をもう一度聴きたい〉と思い、手に取りました。

ご主人が追悼文に引用した大津の語る、この〈玉ねぎ〉とはいったい何でしょうか? 剥(む)いても剥いても姿を現さない神の姿を象徴しているかのようなこの〈玉ねぎ〉という〈謎の存在〉が、実は私達一人ひとりにそっと語りかけ、働きかけているかもしれない――。誰もが生まれ落ちた時からそのメッセージをいただいている、という不思議な物語を、僕は連載『エンドレス・えんどう』にて、みなさんと分かち合いたいと願っています。

今、僕の机の上には『深い河』が置かれています。この本のあらすじをそのまま語るよりも、二十年前に世を去った一人の作家を〈目には見えない死者〉として感じ、その声に耳を澄ましたい……。遠藤周作は作品を通して、僕に、そしてあなたに、時を越えたメッセージを伝え続けることでしょう。

『深い河』の頁をめくると、冒頭は黒人霊歌の歌詞から始まります。

深い河、神よ、わたしは河を渡って、
集いの地に行きたい

(服部剛/詩人)

 

 

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