ギャング・オブ・アメリカ


20世紀のアメリカを舞台にイタリア人移民の家族や愛、信仰といったテーマを見事に扱った『ゴッドファーザー』シリーズは、マフィア映画の金字塔としてだけでなく、人間ドラマの不朽の名作として映画史に刻まれています。そんな『ゴッドファーザー』の物語はフィクションですが、実話を下敷きにした箇所も少なくありません。例えば『ゴッドファーザーPARTII』で重要な役割を果たすハイマン・ロスは、マイヤー・ランスキー(1902-1983)という実在のユダヤ系ギャングをモデルにしています。そのランスキーを描いた『ギャング・オブ・アメリカ』(原題は『ランスキー』)は、物語としてもテーマとしても『ゴッドファーザー』とつながる点が多い映画です。

 

うだつが上がらない中年ジャーナリスト(サム・ワーシントン)が伝説的ギャングの伝記を書くために、引退したマイヤー・ランスキー(ハーヴェイ・カルテル)本人にインタビューするという形式で進展する本作は、回想シーンで波乱万丈のランスキーの半生を伝えながら、ジャーナリストやランスキーの「今」の生き方も同時に問われることになります。

 

ユダヤ人としてロシアに生まれたマイヤー・ランスキーは、父の仕事のため、子供の頃に家族でアメリカ合衆国へ移民します。数字に魅せられていた頭脳明晰なランスキー少年は、堅気な父親と異なり、賭博の世界に足を踏み入れます。そこで、将来のマフィア界の重鎮ラッキー・ルチアーノやバグジーと出会い、裏社会を渡り歩くようになります。「マーダーインク」(殺人会社)と呼ばれる暗殺集団を率いるようになったランスキーは、マフィアのシンジケートで地位を確立し、美人の妻を手にするなど我が世の春を謳歌します。ドイツでナチスが勃興してアメリカでもユダヤ人差別が広まると、ランスキーはギャングを率いて反ユダヤ運動を圧服するのみならず、コネを使って対独防諜(スパイ活動)に協力することで合衆国政府にも貸しを作ります。こうして闇の社会だけでなく政府の有力者との間にコネクションを築いたランスキーは、隣国キューバにも進出して合法的なカジノで巨万の富を築きます。また、新たに建国されたユダヤ人国家であるイスラエルにも金銭や武器の提供をして、陰でパレスチナ人との戦いを支えもしました。ですが、ランスキーの人生は全てが思い通りに進んだ訳ではありません。友との確執や夫婦仲の悪化など私生活で多くの悩みを抱えていたランスキーですが、特に息子が重度の障碍を抱えていたことは、効率を重視する生き方をしてきた彼を苦しめます。これまでのようなランスキーの口から語られる彼の半生は、一面では20世紀のアメリカの闇の歴史そのものであり、「暗黒街で活躍する能率的な犯罪者ランスキー」のイメージと合致します。ですが、次第に一人の人間マイヤー・ランスキーが垣間見えるようになります。つまり、一人のユダヤ人の息子であり、障碍を抱える子供の父、マイヤーの顔が見えてくるのです。

 

マイヤー・ランスキー役のハーヴェイ・カルテルの味のある演技と「中年の危機」に直面するジャーナリスト役のサム・ワーシントンの役作りが記憶に残る『ギャング・オブ・アメリカ』は、イタリア人移民を題材とした『ゴッドファーザー』のように、裏社会で生きるユダヤ人移民の家族、愛、そして信仰を描いています。

(石川雄一、教会史家)

 

2月4日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

公式ホームページ:https://gang-of-america.com/

 

【スタッフ】

監督・脚本:エタン・ロッカウェイ/製作:ロバート・オグデン・バーナム、ジェフ・ホフマン、エリック・ビンス、リー・ブロダ/製作総指揮:ニコラス・シャルティエ、ジョナサン・デクター、トッド・ホフマン、アラン・パオ、ジェフ・ライス/撮影:ピーター・フリンケンバーグ/編集:スティーヴン・ローゼンブラム、マーティン・ハンター/音楽:マックス・アルジ『ブラック・ウィドウ』

【キャスト】

 ハーヴェイ・カイテル、ジョン・マガロ、ミンカ・ケリー、デヴィッド・ジェームズ・エリオット、ダニー・A・アベケイザー、デビッド・ケイド、シェーン・マクレア、ワス・スティーブンス、ジェームズ・モーゼズ・ブラック、アーロン・アバウトボール、ジョエル・ミカエリー

 

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2021年/アメリカ映画/英語/119分/シネマスコープ/字幕:草刈かおり/原題:LANSKY

提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム

 


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