幸せの答え合わせ


熟年離婚という言葉がはやったことがあります。なんで何十年も一緒にいた夫婦が突然離婚という危機に陥るのか、当時の私にはわからない話でした。夫婦の形はさまざまです。それぞれの夫婦の形があると思います。でも、夫婦の片方がその関係に疑問を持ったらどうなるのでしょうか。そしてその夫婦によって営まれてきた家族にも影響が及びます。そんなことを考えさせてくれる映画に出会いました。「幸せの答え合わせ」をご紹介します。

イギリス南部の海辺の小さな町シーフォードで暮らすグレース(アネット・ベニング)とエドワード(ビル・ナイ)は、まもなく結婚29周年を迎えよう

としています。仕事を引退したグレースは詩選集を作ろうと思い立ち、教師を務めるエドワードは帰宅すると唯一の趣味であるウィキペディアへの書き込みに没頭していました。

ある時、エドワードは独立して家を出た一人息子のジェイミー(ジョシュ・オコナー)に、久しぶりに帰ってこないかと電話をかけます。土曜の午後、数か月ぶりに帰郷したジェイミーを満面の笑みで迎えるグレースは、彼がまだ独身であることを心配していました。

喜怒哀楽を表現しないエドワードに、感情豊かなグレースが苛立つという関係が、もう何年も続いているのです。

翌朝、グレースは早朝のミサに出かけ、父と息子で朝食のテーブルを囲んでいると、エドワードが突然、「そろそろ限界だから出て行く」と宣言します。何をしても自分の意見の方に向かわせようとするグレースを幸せにすることはできないと言う父が実は「好きな人がいる」と言い出します。その発言にジェイミーは驚きます。エドワードは生徒の母親であるアンジェラと付き合い始め、「私が何をしても不満なグレースと違い、気楽で波長が合う」と説明します。さらに、グレースが帰宅したら出て行くので、彼女の側にいてくれとジェイミーに頼むのでした。

エドワードの出て行くという言葉は、グレースにとって、青天の霹靂です。驚きから怒りを経て、何とか引き留めようと最後には「謝るわ。二度と責めないから行かないで」とまで譲歩しますが、エドワードは「もう無理だ」「もう終わった」といい、受け付けようとしません。

グレースとジェイミーは、スーツケースを提げたエドワードが家を出て行くのを、ただ聞いているしかありませんでした。

それから数か月、グレースはふさぎ込んでいるさまを心配したジェイミーは、毎週末帰郷しています。

ある日、父と再会したジェイミーは、「もう一度チャンスが欲しい」という母のメッセージを伝えますが、「私は帰らない。それ以外なら何でもする」

と答えます。

どちらの味方でもあろうとするあまり、両親の争いに巻き込まれ、仕事も手につかない状況です。まだ幼い頃の幸せだった日々を思い出して涙ぐむジェイミーを心配した同僚が、捨てられたのは母親だけではなく「あなたもよ」と心の痛みを分かってくれます。

かつてはそこに愛はあったはずなのに、いつ、どうして、父の心は変わってしまったのか? ジェイミーは「私を助ける気がないのか」と責められながらも母の嘆きに辛抱強く耳を傾け、父からは母との出会いや、その後の夫婦関係など、少しずつ本音を聞き出していきます。両親を理解しようとするジェイミーは、他人とうまく付き合えない自分自身とも向き合い始めるのです。

そんな中、エドワードからグレースの元へ離婚の手続きの書類が届きます。グレースはエドワードの同席を条件にサインすることに同意し、二人はジェイミーの立ち会いのもと弁護士事務所で再会しますが、父と息子が予想もしなかったグレースの発言で、事態は思いがけない方向へと転がっていきます。

さて、ここからは観てのお楽しみです。グレースはエドワードとの別離を受け入れ、自分自身の道を歩んでいけるのか、ジェイミーは自分自身と向き合い、前に向かっていけるのか、父エドワードは?

この映画は、監督と脚本を担当したウィリアム/ニコルソンの経験に基づいて着想した物語です。夫婦の別離だけでなく、成人した息子と親の関係をも表現しています。それぞれの自立の物語でもあります。ぜひ足を運んで自分とも向き合えるこの映画をご覧になってください。

(中村恵里香、ライター)

 

 

6月4日(金) キノシネマ他、全国順次公開

公式ホームページ:https://movie.kinocinema.jp/works/hopegap/

 

監督:ウィリアム・ニコルソン
出演:アネット・ベニング、ビル・ナイ、ジョシュ・オコナー
制作年:2018年/イギリス/英語/上映時間:100分/原題:Hope Gap/提供:木下グループ/配給:キノシネマ
© Immersiverse Limited 2018

 


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