アーニョロ・ブロンズィーノ『羊飼いたちの礼拝』
稲川保明(カトリック東京教区司祭)
アーニョロ・ブロンズィーノ(Agnolo Bronzino, 生没年1503~1572)は、マニエリスム(ルネッサンス後期)のイタリア、フィレンツェで活躍した画家です。ブロンズィーノという呼び名は、彼の髪の毛が「青銅=ブロンズ色」に近いということからのようです。メディチ家のコジモ1世の宮廷画家として活躍しましたが、官能的で寓意的な表現を得意としています。ところが、この『羊飼いたちの礼拝』では、彼のエロティシズムのようなものは全く感じられません。
羊飼いの礼拝という画題は、ルカ福音書2章1節~19節のエピソードに基づきます。その中で、こう語られています。
ベツレヘムで羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていたところ、主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らします。彼らはひどく恐れます。すると天使が言います。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである」。すると、突然、この天使に天の大軍が加わって神を賛美します。「いと高きところには栄光、神にあれ、/地には平和、御心に適う人にあれ。」
【鑑賞のポイント】
(1)幼子は、馬小屋の中ではなく、また飼い葉桶の中にでもなく、やって来た羊飼いたちの前に寝かされています。幼子の顔を覗き込むように、皆は膝をかがめ、礼拝する姿勢をしています。正面にいる男性は、パンを入れた籠を持っています。その隣には小羊を抱いた子どもが同じく顔を覗き込もうとしています。
(2)背後にいる何人かの羊飼いたちの中にはバッグパイプをもっている人物もいます。バッグパイプは、今ではスコットランドを代表する楽器ですが、もともとは古代ギリシアで生み出され、地中海一帯に広まっていたともいわれているものです。
(3)マリアの周辺に、カラフルなワンピースのような服を着た天使たちが描かれ、空にはダンスを踊っているような天使たちがいます。そして遠景には、天使たちが羊飼いたちに救い主の誕生を告げる場面が描かれています。