教育新時代:これからの子どもたちはなにを学ぶか(5)


やまじ もとひろ

ニーズは「英語に強い学校」に

このシリーズでは、小学校、中学校、高校などの学校現場で、いま進行中の「教育の新しいかたち」について注目し、なるべくわかりやすくお伝えすることを趣旨としています。

第1回からのテーマは「変わりつつある英語教育」についてです。

なぜ、これほどまで「英語教育」に中高生・保護者が敏感になっているのかは、第1回で述べていますので再読してください。

要約すると、その要因は文部科学省が日本の英語教育の行方に懸念を抱き改革に着手したからです。そして大学入試の改革でも、文科省は英語を重視する姿勢を強く示しています。

少しでもレベルの高い大学に進みたい、進ませたい、と考える中高生・保護者たちは英語に強い学校を選ぼうとします。できれば英語を高校時代のうちにマスターし、それをアドバンテージとして大学進学できれば子どもの未来が開けてくる、とも考えるわけです。

この春の高校入試で、「在学中の留学」をうたっている学校が、受験生を多く集めましたが、この背景にも「これからは英語が必要になる」と考える受験生・保護者のニーズが透けて見えています。

 

「ダブルディプロマ」ってなに?

英語に強い学校として「留学」に次いで、いま中高一貫校や高校で話題にあがるのが「ダブルディプロマ校」です。

聞き慣れない言葉だと思いますが、いま、首都圏や関西圏でダブルディプロマ・コースを開設する学校が増えているのです。

ここに紹介するからには、新しい英語教育の形とは言えるのでしょうが、果たして継続的に受験生が増えていくのかはまだ見通せません。ただ少なくともいま、魅力的な学校群となっていることは間違いありません。

では、一体「ダブルディプロマ」とは、どんな意味を持つ言葉なのでしょうか。

「ディプロマ(diploma)」という英語は、卒業資格を意味します。それがダブルなのですから、卒業資格が2つ手に入るということです。ふたつの卒業資格とは、日本の高校卒業資格と、他国の高校にあたる学校の卒業資格です。それを同時に取得できる高校を「ダブルディプロマ校」と呼んでいます。

首都圏で最も早く、2015年からダブルディプロマ・コースに手をつけたのは文化学園大学杉並高校(東京都)でした。

その特徴は、日本の高校に通いながらカナダの学校の授業を英語で受けられ、しっかり学べばカナダの高校の卒業資格も得られるというものです。

具体的には、文大杉並高はカナダの学校と提携し日本校を学校内に誘致したのです。現地の学校と同じ授業をカナダ人の教員が英語で繰り広げ、カナダで発行される卒業資格を認定します。実際に3年を経た2018年春の1期卒業生は、その卒業資格を〝武器〟に、早稲田大学(3名)、国際基督教大学(4名)、上智大学(1名)のほか、オランダ、チェコなど海外の大学へ進学しました。1期生の〝成功〟は、その後の文大杉並高ダブルディプロマ・コースに生徒が集まる原動力となりました。

 

「留学」よりお得か?!

日本の高校生が、そんなに簡単に英語の授業を受けて理解が進むものなのでしょうか。文大杉並高では入学すると、英語特訓のあとの夏休み、カナダに5週間の短期留学をします。その短期留学の間に、英語力が劣っていても「英会話力は別のもの」、「英語で話すことは楽しい」という経験を積みます。それから、日本に戻り、カナダの学校のメソッドで授業を受けることになります。

カナダは、アメリカ以上に多文化共生社会です。そのなかで正式に高校の公教育の内容を海外の高校に指導できる仕組みをカナダの文化は持っていました。そのことが大きかったと言えます。

文大杉並高のシステムで大切なのは、日本に「居ながらにして」というフレーズです。

留学せず日本の在籍校にいて、カナダの先生の指導で授業が受けられるのが魅力です。先にあげた「在学中の留学」をうたっている学校は、ほぼ1年間の留学をする学校です。

言うまでもありませんが、文大杉並高のダブルディプロマ・コースでは5週間ですから、留学ほどには費用がかかりません。保護者は長期留学のようには心配もしなくてよい安心感があるのも魅力です。

ダブルディプロマ・コースのカリキュラムの魅力は、日本の中等教育を欠かすことなく、日本で高校を卒業できるうえ、じっくりと「英語で学ぶ」機会があり、高い英語力を養うことができることです。

そしてダブルディプロマを手にしたあとは、日本を含め、世界中の大学への進学という道が開かれています。
さて、東京では文大杉並高に生徒(受験生)が集まるようになったことで、追随する学校がでてきました。ただ、そんな各校のダブルディプロマ・コースは、少しシステムが違うようです。その件は次回にお話ししましょう。

 


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