《対話で探求》 ミサはなかなか面白い 12:父と子と聖霊にイン


父と子と聖霊にイン

 

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答五郎……さて、「父と子と聖霊のみ名によって」「アーメン」というミサの最初の発声句について考えを進めよう。まず、父と子と聖霊がキリスト教の神の名といわれるのだが、聞いたことある?

 

 

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問次郎……キリスト教の神は唯一の神であるという一方で、父と子と聖霊であるという、いわゆる三位一体の神秘のことですね。

 

 

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答五郎……その神秘をミサに即して考えていこうというのが提案なのさ。考えるヒントは、まず「名」にある。「父と子と聖霊の名」とは何だろうね。

 

 

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問次郎……名は、一般には、ものの前側に付けられるラベルのようなものなのですが、父と子と聖霊の名については、むしろ本質を表すという解説を目にしたことがありますが。

 

 

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答五郎……実はその解説にも一理あることがあとでわかるのだが、ここではもっと単純に考えていかないか。名とは何のためのものだろう。問次郎とか美沙という名前は何のためにある?

 

女の子_うきわ

美沙………一つには呼ぶためのものですね。他と違うその人らしさを表すという役目、そういう意味で本質を示すという機能もありますが。

 

 

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答五郎……そう、まず、名、名前とは呼ぶためのものだということに注目しよう。父と子と聖霊に関して、それが神の名というわけは、まず、父、子、聖霊と呼ばれる存在だと考えてよい。そして、ミサこそは、まさに、その名を呼ぶ現場なのだよ。

 

女の子_うきわ

美沙………たしかに「いつくしみ深い父よ」とか「主よ、あわれみたまえ」「キリスト、あわれみたまえ」と唱えますね。このことですね。

 

 

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答五郎……聖霊について直接呼びかける祈りはミサの式文では聞かないかもしれないが、「聖霊、来てください♪」という賛歌(聖霊の続唱)があり、聖霊に呼びかける祈りはちゃんとあるのだよ。

 

 

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問次郎……「父と子と聖霊の名」には、神が信者たちから「父よ、子キリストよ、聖霊よ」というふうに呼びかけられる存在、呼びかけ相手だということを示しているのですね。

 

 

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答五郎……三位一体の神学でいわれるところの「三位」の「位」の原語はペルソナだが「呼びかけ相手」とも訳すことができる語だ。もともと「顔」の意味を含んでいるからね。父である神と御子イエスは、たえず互いに呼び合っている。聖霊(真理の霊・弁護者)のことも身内のように引き合いに出す。キリスト教でいう神とは、父と子と聖霊、その交わりそのものだともいえるのだ。

 

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問次郎……神が交わりそのものだというのは、すごく斬新な響きです。

 

 

 

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答五郎……そして、イエスは、「天におられるわたしたちの父よ」という祈り方を、弟子たちに伝授して、この父である神を呼ぶ仲間にさせてくれている。キリスト者とは、広い意味では、この父である神を呼ぶ仲間、そのようにして祈る仲間ということだ、それをイエス・キリストが仲介し、また聖霊もそばで働いていてくれる。ローマ書でパウロは言うのはそのあたりのことだ。「あなたがたは……神の子とする霊を受けたのです。この霊によってわたしたちは、『アッパ、父よ』と呼ぶのです」(ローマ8・15)。

 

女の子_うきわ

美沙………神の子とする霊を受けたというあたりは、洗礼のときのことでしょうか。

 

 

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答五郎……そう、洗礼を受けて、人はキリストの兄弟姉妹として神の子どもとされ、そして聖霊が自分たちの中に働くから、こうやってミサに集まって「父よ」「主よ」と呼んで祈れるのだよ。

 

 

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問次郎……はぁ。ずいぶんな深いことがこの一句で表現されているのですね。「名によって」という句もそのあたりに関係しているのでしょうか。

 

 

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答五郎……そうなのだよ。ところで「名によって」という日本語の句をどんな意味で聞いていたかな。

 

 

女の子_うきわ

美沙………「による」とは「それに基づく」とか「依拠して」という意味と思って聞いていました。

 

 

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答五郎……実はここのラテン語は「イン・ノミネ」。「によって」の元は「イン」なんだよ。英語でもどの西洋の語でもたいていそのまま「イン」だ。日本語だと、「中で」「において」「のうちで」と訳すのが普通な前置詞だ。ギリシア語では「エン」という。似たようなものだね。

 

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問次郎……「父と子と聖霊のみ名のうちで」とか「み名において」とかも訳せるわけですね。

 

 

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答五郎……この「イン」のいう前置詞に、父と子と聖霊の交わりの中で、とか、人が父である神の子とされる聖霊を受け、その力で今「父よ」と祈れるといった関係全体が含まれているのだよ。

 

女の子_うきわ

美沙………たしかに、その意味だと「の中で」とか「のうちで」という訳では足りませんね。「によって」という訳は、そのようなことも考えての苦心の産物なのですね。

 

 

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答五郎……問次郎さんが先程引き合いに出した、ここでの「名」は本質を表すという説明の仕方も、「イン・ノミネ」(名によって)という語句を念頭に置くとよく理解できる。「父と子と聖霊のみ名によって」とは、「父と子と聖霊という神自身の交わりというあり方(いのち)の根源に結ばれて」というような意味が含まれているはずだからね。

 

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問次郎……ちょっと畏れ多い気がしてきました。

 

 

 

女の子_うきわ

美沙………短い対話句なのに、とても深い意味があるのですね。

(企画・構成 石井祥裕/典礼神学者)

(つづく)


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