教育新時代:これからの子どもたちはなにを学ぶか(3)


やまじ もとひろ

東京都の英語スピーキングテスト

東京都の公立中学校に通う生徒に対して、英語のスピーキングテストが始まるのをご存じでしょうか。

始まれば、毎年初冬(11月~12月)に中学3年生を対象として行われ、そのテストの結果が、年明け2月に行われる都立高校入試「英語」の一部成績として反映されることになります。高校入試の合否判断に直結することが発表され、俄然注目を浴びているのです。

英語スピーキングテストが、いつから導入されるのかというと、いまから1年半後の来年(2021年)冬に本格実施となります。つまり、現在中学2年生の高校入試に大きく関係してくるというわけです。

東京都教育委員会では、昨年を含め、抽出された中学3年生を対象にプレテストを何回も実施してきました。いまから半年後の今冬(2020年)、都の公立中学校3年生全員に最後のプレテストが行われ、翌年冬(2021年)、いまの中学2年生が3年生となって本番の第1回スピーキングテストを受け、明けて2022年2月の都立高校入試にそのテスト結果が、英語入試の一部成績として活用されるのです。

2019年冬(11~12月)に行われた東京都中学校英語スピーキングテストのプレテスト結果を報じる都教委の文書。プレテストは各生徒にタブレットがわたされ、イヤホンで設問を聞き各自が答えをタブレットに録音する形式で行われた。

 

スピーキングは英語4技能の1つ

具体的にスピーキングテスト実施の様相をうんぬんするのは次回以降に譲るとして、今回は「なぜいま」に字数を割きましょう。

英語を活用するための技能には、「読む(リーディング)」「聞く(リスニング)」「書く(ライティング)」「話す(スピーキング)」の4技能があるといわれます。もちろん、これは英語に限らず言語能力を測るときには共通しています。

ご家族でいえば、祖父母世代の高校入試「英語」では出題がペーパーで行える「読む、書く」が試され、ご父母世代になって放送を使った3技能目の「聞く」までが課せられるようになりました。中学校、高校の授業では、「話す」を含めた4技能すべてを指導されているのに、それを測る入試では、すべては試されてこなかったわけですね。

そのことが「日本人は何年も英語を学習しているのに活用には至らない」ということになってしまう理由の1つだったことは確かでしょう。入試に関係がない勉強は、中高生の多くはなかなかやらないものです。

 

アウトプットの時代が来た

「読む、聞く」はインプットの技能です。逆に「書く、話す」はアウトプットの技能です。日本人はアウトプットが弱かったということになります。じつは、このことは英語に限りません。高校時代までの勉強はインプット(受信)で済みますが、大学での研究、あるいは社会に出てからの活動ではアウトプット(発信)ができなければ、人は生活できません。

始まる新学習指導要領では中高ともに「アクティブラーニング」という、教員と生徒、また生徒同士が双方向に学びあう授業展開が重視されます。アクティブラーニングでは、ただ机に坐って聞いているだけ、板書を写しているだけといったインプットの学習スタイルではこと足りません。自ら発信するアウトプットがなければ、授業に出ている意味がないのです。

ここに英語スピーキングテスト導入の「なぜいま」の答えがあります。つまり、英語スピーキングテストの登場は、日本の学習スタイル変革の一部が反映されているに過ぎないのです。ですから、英語スピーキングテストは東京ローカルの出来事にとどまらず、全国に波及していくことは間違いがありません。

[つづく]

やまじ もとひろ
教育関連書籍、進学情報誌などを発刊する出版社代表。
中学受験、高校受験の情報にくわしい。

 


教育新時代:これからの子どもたちはなにを学ぶか(3)” への1件のフィードバック

  1. 公立中学校で英語のスピーキングテストが始まるとは、まったく知りませんでした。子供たちも大変ですが、教える先生方も大変ですね。わたしも大学ですが教員のはしくれで、今学期から急にオンライン授業にせよ、と言われて泥縄で対応しておりますが、まるで自信はありません。きっかけは言うまでもなくコロナウイルスによる自宅待機ですが、総じていえば小中高ですでに始まっていた「改革」がやっと大学にも及ぶようになったといえるかもしれません。アクティブラーニングも声高に叫ばれてはおりますが、大学で一般的な講義科目では受講生が多い(同業者のなかには受講生が4桁の科目を教えている者もいます)ので現実には困難という事態に甘えて、小中高ほどではないと思います。とくに多くの地域で初めての受験生を抱える中学校の大変さは、あれやこれやの要望に追われて、予想をはるかに超えるものがあるでしょう。「改革」の現場で先を走る小中高の先生方には頭が下がる思いです。それはそうとして、英語のスピーキングはたんなる受け身の技術ではなく、また「日本語で言えないことは英語でも言えない」といいますから、能動性・主体性の問題でもありますね(英作文もその一面がありますが、スピーキングは比較にならないほど能動的だと思います)。子供たちの何が変わるのか。「将来の大学生」のこれからに注目したいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

3 × four =