ルカ・ジョルダーノ『ラザロのよみがえり』
稲川保明(カトリック東京教区司祭)
この絵の作者ルカ・ジョルダーノ(Luca Giordano, 生没年1634~1705)はナポリで生まれ、同じくナポリで亡くなった画家です。その画風はカラヴァッジョの厳粛な雰囲気を受け継いでいるとともに、ヴェロネーゼの豊かな色彩からも学んでいます。彼の作品は明るく快活なロココ様式の到来を予感させるものとなり、とても多くの作品を制作したことから「早描きのルカ」というニックネームもありました。フィレンツェ、ヴェネツィアにも作品を残し、スペインにも10年ほど滞在し、エル・エスコリアル修道院において、スペインの王室、教会からの依頼を受け、ここでも多くの作品を手がけました。
さて、ラザロの復活のエピソードは、ヨハネ福音書11章にあります。
ある病人がいて、ラザロという名前でした。マリアとその姉妹マルタの村ベタニアの出身でした。このマリアは主に香油を塗り、髪の毛で主の足をぬぐった女でした。兄弟ラザロが病気で、姉妹たちはイエスのもとに人をやって、「主よ、あなたの愛しておられる者が病気なのです」と言わせると、イエスは、言われました。「この病気は死で終わるものではない。神の栄光のためである。神の子がそれによって栄光を受けるのである」と。
ラザロが死に、姉妹たちや人々が泣いていると、イエスは「心に憤りを覚え」とヨハネ福音書は述べています。涙も流します。そのイエスに対して「ラザロが死なないようにはできなかったのか」という非難めいた言葉が放たれ、イエスは再び心に憤りを覚えながら、墓のところに来ます。墓は洞穴で、石でふさがれていましたが、イエスは「その石を取りのけなさい」と言います。
これに対して、マルタが、「主よ、四日もたっていますから、もうにおいます」と答えると、イエスは、「もし信じるなら、神の栄光が見られると、言っておいたではないか」と言います。人々が石を取りのけると、イエスは天を仰いで言います。「父よ、わたしの願いを聞き入れてくださって感謝します。……」。そう言ってからイエスが「ラザロ、出て来なさい」と大声で叫ぶと、ラザロは手と足を布で巻かれたまま出て来ます。顔は覆いで包まれていました。イエスは人々に、「ほどいてやって、行かせなさい」と言った……というものです。
【鑑賞のポイント】
(1)イエスのまなざしと右手はラザロの方に向けられています。
(2)イエスとラザロの間にマリアとマルタの二人の姉妹が異なる仕方でイエスの奇跡を見て、驚きながらも賛美と称賛を向けているように見えます。マルタは敬虔に手を合わせ、マリアは大きく両手をひろげてあたかもラザロの差し出している手とイエスの手を繋ごうというような姿です。
(3)周辺にいる多くの人々の表情も豊かです。驚きつつも喜びを隠せない人々の表情です。