映画の紹介記事を書くようになって、いくつかの国の映画がいつも気になるようになっています。そんな国のひとつがポーランドです。なぜ気になるのかは私自身よく分かっていません。でも、ポーランド映画の歴史を見てみると、アンジェイ・ワイダやロマン・ポランスキーなど有名な監督も輩出していますし、人の心に残る映画も多いので、そんなところに魅了されているのかもしれません。そんなポーランド映画の中で、2013年に『イーダ』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキ監督が5年ぶりにメガホンをとった作品『COLD WAR あの歌、2つの心』が6月28日から公開されます。ぜひ皆さんにも観ていただきたいと思うので、ご紹介します。
1949年、冷戦下のポーランドでは、3人の男女が、民族音楽を集めるために村から村へと訪ね歩いていました。彼らの仕事は、歌唱力とダンスの才能に恵まれた少年少女を探し出し、国立マズレク舞踏団を立ち上げることです。管理部長のカチマレク(ボリス・シィツ)の指揮のもと、養成所が開設されます。集められた少年少女の中からピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)とダンス教師イレーナ(アガタ・クレシャ)が団員を選抜します。
選抜試験の初日からエネルギーに満ちたまなざしでヴィクトルを魅了する少女がいました。彼女の名はズーラ(ヨアンナ・クーリク)。イレーナによると、父親殺しで執行猶予中の問題児ということでした。ヴィクトルがズーラに直接「お父さんと何が?」と問いかけると、彼女はその理由を平然と話し、「私に興味が? それとも私の才能に?」と大人びた表情で問いかけます。
1951年、国立マズレク舞踏団の初舞台がワルシャワで幕を開けます。センターで歌い踊り、ひときわ観客の目を引く存在がズーラでした。公演は大成功を収め、ヴィクトルたちは大臣に呼び出されます。最高指導者の賛美を歌えば支援を惜しまないと持ちかけられます。純粋な民俗芸能にこだわるイレーナは断りますが、管理部長のカチマレクは、権力にすり寄り、引き受けます。
その頃、ヴィクトルとズーラは激しい恋に落ちていましたが、ズーラはヴィクトルが西側の放送を聴いていないか、神を信じているかといったことを、カチマレクに密告していると告白します。執行猶予中のズーラは命令に従うしかありませんでした。西側の音楽を棄てきれないヴィクトルは、パリへの亡命を決意します。1952年東ベルリン公演の後、一緒に行くと約束したズーラをヴィクトルは待ちますが、数時間過ぎても現れません。1人ヴィクトルは西側へと渡ります。
1954年、パリで作曲や編曲をしながら、ジャズバンドのピアニストとしてバーやクラブで演奏していたヴィクトルは、舞踏団のツアーでやってきたズーラと再会します。2人の再会はぎこちない会話に終わります。
1955年、舞踏団の公演を見るためにユーゴスラビアをヴィクトルは訪れますが、1幕が終わると、ユーゴスラビアの保安局に連行され、パリに送り返されてしまいます。
1957年、シチリア人と結婚し、合法的にポーランドを出国したズーラは、夫と別れ、ヴィクトルと暮らし始めます。ヴィクトルのプロデュースでレコードデビューを果たしますが、パリの華やかではありながら、どこか浮ついた生活になじめず、心を閉ざしてしまい、ポーランドに帰ってしまいます。
ヴィクトルは、ズーラを追ってポーランドに帰っていくのですが、その後は観てのお楽しみです。ポーランドに戻ったヴィクトルの運命は、ヴィクトルとズーラは再会できるのか、そして2人の行く末は……。
この映画の魅力は、なんといっても愛し合いながら結ばれることのない、2人の運命にあります。また、ポーランドの民族音楽とダンス、ジャズの音楽にも魅力を感じます。時代の流れの中に翻弄されていく2人の姿に感銘を受けます。
そして、もうひとつ最大の魅力は、パヴェウ・パヴリコフスキ監督の描くモノクロの世界観です。なぜこの監督はモノクロにこだわるのかが最大の謎なのかもしれません。
6月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
公式ホームページ:https://coldwar-movie.jp/
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ
撮影:ウカシュ・ジャル
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他
2018年/原題:ZIMNA WOJNA /ポーランド・イギリス・フランス/ ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語 / モノクロ /88分/ DCP/ G / 日本語字幕:吉川美奈子
配給:キノフィルムズ