『アウグスティヌスのキリスト論』


浅井太郎『アウグスティヌスのキリスト論』、サンパウロ、2023年、4,400円。

8月28日、教会はヒッポの聖アウグスティヌスを記念します。カトリックとプロテスタントを問わず西洋のキリスト教に多大な影響を与えた教父であるアウグスティヌスは、「西欧の父」とも呼ばれ、歴史上最も重要な神学者の一人とみなされています。今年選出された教皇レオ14世は、アウグスティヌスの霊性を受け継ぐアウグスティノ会士であり、就任後最初のメッセージの中で、「わたしは聖アウグスティヌスの子です」と明言しました。この発言は、アウグスティヌスが現代の教会においてもなお、いかに重要な精神的遺産であるかを強く印象づけます。アウグスティヌスを学ぶことは、単なる一人の偉大な神学者の思想を知ることにとどまらず、西洋哲学・神学の源流を探ることにつながります。そして、アウグスティヌスの系譜を引く人物が教皇となった今、教会の未来を見通す一つの視座にもなり得るでしょう。

本邦においては山田晶に代表される様々な顕学が、包括的な入門書から専門的な研究書、そして一次文献の翻訳まで多様なアウグスティヌス関連の書籍を世に送り出してきました。しかし、意外なことにアウグスティヌスのキリスト論に特化した研究書は、日本はもちろん、世界的にもほとんどありませんでした。キリスト教の聖人である以上、アウグスティヌスがキリストを中心に生き、その思想もキリストを中心に展開されているのは言うまでもありませんが、彼のキリスト論に焦点を絞ったまとまった研究は長らく不在だったのです。そんな中、浅井太郎師による『アウグスティヌスのキリスト論』は、アウグスティヌスのキリスト論の再評価が進んでいる海外の近況を日本に伝えてくれます。

浅井師はまず、なぜアウグスティヌスのキリスト論がこれまで顧みられてこなかったのか、その背景を解明するところから論を始めます。19世紀以降の研究史を鳥瞰し、以前このコーナーでも紹介したハルナックのアウグスティヌス解釈が、アウグスティヌスのキリスト論軽視の潮流を形成したとする指摘を吟味した後に、アウグスティヌスの活動した時代背景や思想的文脈を再確認し、そしてアウグスティヌスのキリスト論に関する細かい分析が展開されていきます。

本書は浅井師の博士論文を刊行したものであるため、神学を学んだことのない人には難しい専門的な本となっていることは否めません。それでも少しでも神学に触れたことのある、または、アウグスティヌスの思想に興味があるのであれば、一読する価値のある本であるといえるでしょう。

石川雄一 (教会史家)


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