うぉっしゅ


超高齢化社会の中、70歳以上の3人に1人が認知症だという統計がありますが、自宅で認知症の高齢者を見る介護生活は、私自身体験し、その過酷さは身をもって知っていますが、映画にするとどうなんだろうと思っていました。ドキュメンタリー映画では何本か認知症患者自身とその家族を扱ったものがありますが、それは現実を映し出すものでしかなく、私には苦痛を蘇らせるだけのものでした。今回ご紹介する作品は1人の20代女性が認知症の祖母と正面から向き合いつつ、自身のことも振り返っていく本当に明るくて、ある意味楽しい作品です。

ソープ店で働く主人公・加那(中尾有伽)は、ある日、仕事から帰る途中、母・早苗(磯西真喜)から電話があり、急きょ入院することになったから「1週間だけ、おばあちゃん の介護してくれない?」と頼まれます。仕事のことを隠していた加那は、ソープ嬢ということを秘密にしたまま、翌日から自宅から祖母宅、そしてソープ店を行き来して、“人 の身体”を洗い続ける二重生活〈ダブルワーク〉をすることになります。

加那は、認知症が進み、名前すら覚えていない祖母・紀江(研ナオコ)の介護に奮闘することになります。会うたびに“初対面”を繰り返してゆく毎日にうんざりし、たった3日で投げ出してしまい、ヘルパーを頼んでしまいます。ソープ店の同僚・久美(西堀文)とすみれ(中川ゆかり)と仕事終わりに酒を飲み、放埒な暮らしをしている加那でした。

「どうせ忘れる」相手に対し加那は、祖母との暮らしの中で、祖母に対しては、本当の事を素直に打ち明けられている自分に気付いていきます。久美とすみれの2人とも別れが訪れます。そんな時、加那の家の家政婦・名取(高木直子)に言われた言葉に気づきが生まれます。

「忘れ去られていたから、忘れるの。おばあさまがあなたのこと忘れていたのではない。あなたがおばあさまのことを忘れていたのよ」

この言葉を聞いて、ゴミだらけの家をきれいに掃除し、タクシーを飛ばして祖母の家に向かい、祖母と本気で向き合うことで、祖母の知らなかった、これまでの人生と孤独が垣間見えてきます。

祖母と加那の孤独とは何か、そしてこの後の加那はどう生きていこうとするのかは皆さん観てのお楽しみです。

認知症には特効薬はないといわれています。その患者と向き愛せカツしていく家族の介護生活は本当に過酷な生活ですが、それを逆手にとって、エネルギッシュな笑いに変えてしまえる本当に楽しい作品です。ぜひ映画館に足を運んで観てください。

中村恵里香(ライター)

公式ホームページ:https://wash-movie.jp/

出演:中尾有伽、研ナオコ、中川ゆかり、西堀文、嶋佐和也、諏訪珠理、井筒しま、中山慎悟、サトウヒロキ、名倉右喬、佐藤まり、順哉、惣角美榮子、越山深喜、広瀬蒼、石原滉也、松原怜香、岡﨑育之介、細川佳央、藤井千咲子、髙木直子、赤間麻里子、磯西真喜

スタッフ

監督・脚本:岡﨑育之介/企画:岡﨑育之介/音楽:永太一郎/共同プロデューサー:神原健太朗、ムラタマリエ/ラインプロデューサー:赤間俊秀/撮影:江成隼/照明:西野正浩/録音:岩﨑敢志、庄野廉太朗/スタイリスト:川邉舞/ヘアメイク:幸田啓/カラリスト:井上海/編集:岡﨑育之介

制作プロダクション:役式/©役式/配給:NAKACHIKA PICTURES/2023年/115分


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