戦争の記憶は当事者だけでなく、子々孫々まで伝えるべきものだと私は思っています。日本人は戦争の記憶を子どもや孫にまできちんと本当に伝えられているのだろうかと思うことが多くあります。安易に自分の思い通りにならないからといって人を傷つけたり、人殺しをしてしまう今の状況からそんなことを考えていました。今回ご紹介する作品は、第二次世界大戦前に「VOGUE」誌をはじめとする数々の雑誌などで活躍していた女性リー・ミラーが戦争報道カメラマンとして活躍する姿を描いた作品です。
1977年、イギリスのファーリー・ファームで70歳のリー・ミラー(ケイト・ウィンスレット)は、若いジャーナリスト(ジョシュ・オコナー)の質問に答えていました。かつてリーが撮った、戦争とその犠牲者や影響を捉えた写真を見ながら、当時の記憶を呼び戻していきます。
その話は、1938年のフランスのムージャンでの出来事まで遡ります。リーは、芸術家や詩人の親友たち、ソランジュ・ダヤン(マリオン・コティヤール)や

The film explores the most significant decade of Lee Miller’s life. As a middle-aged woman, she refused to be remembered as a model and male artists’ muse. Lee Miller defied the expectations and rules of the time by traveling to Europe to report from the frontline during WWII. There, in part as a reaction to her own well-hidden trauma, she used her Rolleiflex camera to give a voice to the voiceless. What she captured on film in Dachau and throughout Europe was shocking and horrific. Her photographs of the war, its victims and its consequences remain among the most significant and historically important of the Second World War. She changed war photography forever, but Lee Miller paid an enormous personal price for what she witnessed and the stories she fought to tell.
ヌーシュ・エリュアール(ノエミ・メルラン)らと休暇を過ごしている時にイギリス人の芸術家でアートディーラーのローランド・ペンローズ(アレクサンダー・スカルスガルド)と出会います。「なぜ今まで出会わなかったの?」とローランドに声をかけるリー。2人は数時間で恋に落ちていきます。
ほどなく第二次世界大戦の脅威が迫り、一夜にして日常生活のすべてが一変してしまいます。戦争が激化する中、リーは恋人のローランドと共に彼の故郷であるロンドンへ移ることを決めます。ロンドンでの新しい生活が始まり、リーは英国版『VOGUE』の編集長オードリー・ウィザーズ(アンドレア・ライズボロー)を訪ね、写真家としての仕事を得ます。その頃、パリはナチスの占領下となり、友人たちが地下に潜ったと伝え聞きます。そして、ナチス政権の残虐な行いを世に伝えるべく、ローライフレックスカメラで戦争の後をリーは記録しはじめます。
ある日リーは、アメリカ「LIFE」誌のフォトジャーナリスト兼編集者のデイヴィッド・シャーマン(アンディ・サムバーグ)と出会い、彼とチームを組むようになりますが、軍事基地の内部に女性は入れないなど、撮るものを制限されている当時の女性写真家たちの立場に苛立っていました。それでも、自分が撮りたいもの、撮るべきものを求め、従軍記者兼写真家として戦場の最前線で写真を撮る許可を情報省に要請するよう『VOGUE』のオードリーに促します。イギリスから許可は降りなかったのですが、諦めきれないリーはアメリカで従軍の許可を得て単身ヨーロッパへ向かいます。
1944年、フランス・ノルマンディーに向かったリーですが、そこでも女性であることの壁が立ちはだかります。前線には出られず、案内されたのは医療テントでした。そこで彼女が目にしたものは、日に100件以上手術をしている軍医と傷を負った兵士たちでした。彼女はなぜ自分が戦場に残りたいのかその理由もわからないまま彼らにカメラを向け、キャンプで働く人たちを撮り続けます。
しばらくしてサン・マロへ行くことが許可されます。街は平和だと聞いていましたが、内戦の只中で命の危険にさらされます。サン・マロの包囲戦を乗り越え、史上初めてナパーム弾が使用された瞬間を写真に収めた彼女は、写真家仲間のデイヴィッドと共に次々とスクープを掴んでいきます。
パリが解放されてもヨーロッパ各地では戦いが続き、戦争終結にはまだ遠い状況でした。ナチスはユダヤ人だけでなく、芸術家、共産主義者、同性愛者、黒

The film explores the most significant decade of Lee Miller’s life. As a middle-aged woman, she refused to be remembered as a model and male artists’ muse. Lee Miller defied the expectations and rules of the time by traveling to Europe to report from the frontline during WWII. There, in part as a reaction to her own well-hidden trauma, she used her Rolleiflex camera to give a voice to the voiceless. What she captured on film in Dachau and throughout Europe was shocking and horrific. Her photographs of the war, its victims and its consequences remain among the most significant and historically important of the Second World War. She changed war photography forever, but Lee Miller paid an enormous personal price for what she witnessed and the stories she fought to tell.
人、ジプシー、意見を持つ者が連行いきます。そんな中、ローランドがリーを訪ねて来て、一緒にイギリスに戻ってほしいと伝えますが、多くの人が消えているのに知らん顔はできないと、彼女はデイヴィッドと前線に行くことを決意します。
1945年、リーとデイヴィッドはドイツとの国境へ向かいます。何ヶ月も車を走らせ、彼らはブーヘンヴァルト強制収容所とダッハウ強制収容所が解放されたその日に、現場に初めて足を踏み入れたカメラマンたちの中にいました。耐えがたい臭いが立ち込める中、目にしたのは、何千何万という数の行方不明の人々の死体でした。その光景は、リー自身の心にも深く焼きつき、戦後も長きに渡り彼女を精神的に苦しめることとなります。その後、パリ解放をカメラに収めたリーとデイヴィッドは、ヒトラーが自死した日、廃屋となったミュンヘンのヒトラーの屋敷へと忍び込み、デイヴィッドは総統の浴室で入浴するリーを撮影します。
ロンドンに帰国後、リーのもとに英国版『VOGUE』の勝利号が送られてきますが、そこに彼女の撮影した戦場写真は掲載されていませんでした。怒りをたぎらし編集部へ駆け込んだリーは、自分が撮った写真やネガを次々と切り刻んでしまいます。事実を、実際に起きたことを、封印してはならないのだと編集長のオードリーに訴えます。
なぜ彼女は写真やネガを切り刻んでしまったのか、そして若い若いジャーナリストとの関係は、彼女が従軍記者兼写真家として活動した背景はどのようなものだったのかはミサンガ映画館に足を運んで観てください。
世界がきな臭い状況にある今こそ、この映画が作られた意味があるように思います。二度と世界大戦なんて起こってほしくないと私たちが感じることが重要なのではないかと訴えてくるような作品です。
中村恵里香(ライター)
2025年5月9日(金)TOHOシネマズシャンテほか
公式ホームページ:https://culture-pub.jp/leemiller_movie/index.html
スタッフ:監督:エレン・クラス/製作:ケイト・ウィンスレット、ケイト・ソロモン、トロイ・ラム、アンドリュー・メイソン、マリー・サヴァレ、ローレン・ハンツ/製作総指揮:ジュリア・スチュアート、ローラ・グランジ、フィノラ・ドワイヤー、トーステン・シューマッハー、ビリー・マリガン、ジェイソン・デュアン、クリスティーン・ジャン、レム・ドブス、リズ・ハンナ、ジョン・コリー、クレア・ハードウィック/脚本:リズ・ハンナ、マリオン・ヒューム、ジョン・コリー/撮影:パヴェウ・エデルマン/美術:ジェマ・ジャクソン/キャスティング・ディレクター:ルーシー・ビーヴァン、オリヴィア・グラント/衣装:マイケル・オコナー/ヘアメイク:イヴァナ・プリモラック/音楽:アレクサンドル・デスプラ/編集:ミッケル・E・G・ニルソン
キャスト:ケイト・ウィンスレット、アンディ・サムバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、マリオン・コティヤール、ジョシュ・オコナー、アンドレア・ライズボロー、ノエミ・メルラン
配給:カルチュア・パブリッシャーズ/原題:LEE/イギリス/2023 /116分/英語、フランス語/翻訳:松浦美奈/© BROUHAHA LEE LIMITED 2023