モンテッソーリ教育という教育法をご存じでしょうか。『アンネの日記』の著者・アンネ・フランクやAmazon創業者ジェフ・ベゾス、Google創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、シンガー・ソングライターのテイラー・スウィフト、将棋の藤井聡太などが受けたことで知られています。その教育法を創出したマリア・モンテッソーリがモンテッソーリ−・メソッドを実践し、健常児向け学校の設立に乗り出す1907年までの7年間を描いた映画が公開されます。
マリア・モンテッソーリは、1870年生まれのイタリア初の女性医師です。障害がある子どもたちの実験的な教育に一緒に取り組んでいた医師が公私のパートナーで、愛し合い、息子をもうけながらも非婚を貫いていきます。マリア・モンテッソーリは、結婚をすれば女性である自分が有形無形に縛られるのは目に見えていると考え、結婚することを拒否し続けるラジカルな当時としては、新しい女性です。
一方、フランスのパリのナイトクラブで人気のあるクルチザンヌ(高級娼婦)として活躍していたリリ・ダレンジ(レイラ・ベクティ)は、実母が亡くなり、母の元に置き去りにしてきた障害をもつ娘を引き取らざるを得なくなります。娘に学習障害のあることが明るみに出そうになり、自分の名声を守るため、愛人関係にあったイタリアの王子の誘いを受けてローマに逃げるように移り住むことになります。
娘への対応に苦慮していたときに障害児の教育施設を運営するマリアに出遭います。マリアの施設に通うようになると、苛立ち、狼狽えながらも、リリの内に次第に娘はただの障がいのある女の子ではなく、強い意志と才能を持った人として、ありのままの娘への愛情が育まれていきます。そして社交界のコネクションを使って、教育者としてのマリアの野望を実現すべくバックアップし、奮闘していきます。
そんなマリア・モンテッソーリに対し、ともに取り組んでいた男性は、結局家名のために母親が勧める女性との結婚を選びます。パートナーに裏切られ、息子も手放す決意と引き換えに、かねてから実現を期していた健常児向けの学校の設立に乗り出していきます。
監督は、娘が遺伝性の病気を持って生まれたことが映画の制作のきっかけだったといいます「娘のおかげで、特別な支援を必要とする子どもたちの教育については多くの経験があります。その多くは、マリア・モンテッソーリが実践していたことと非常に近いものです」ともいっています。
19世紀末から20世初頭、まだ女性が学歴を持ち、独立して働くことが難しかった時代に最先端を行く教育法を確立し、社会と闘い生きていくマリア・モンテッソーリにの生き方には、多くの示唆があります。ぜひ映画館に足を運んで観てください。
中村恵里香(ライター)
3月28日(金曜日)よりシネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺ほかにて全国順次公開
スタッフ
監督・脚本:レア・トドロフ/撮影:セバスティアン・ゲプフェール/照明:エティエンヌ・ルシュール/編集:エステル・ロウ/美術:パスカル・コンシニ/音楽:メル・ボニス/プロデユーサー:グレゴワール・デベイリー、カルロ・クレスト・ディナ、ヴァレリア・ジャモンテ、イラリア・マラグッティ、マヌエラ・メリッサーノ
キャスト
ジャスミン・トリンカ、レイラ・ベクティ、ラファエル・ソンヌヴィル=キャビー、ラファエレ・エスポジト、ピエトロ・ラグーザ、アガト・ボニゼール、セバスティアン・プドゥル、ラウラ・ボレッリ、ナンシー・ヒューストン
2023年/フランス・イタリア/イタリア語・フランス語/99分/字幕:杉本あり/原題:Maria Montessori (La Nouvelle Femme)/© Geko Films – Tempesta - 2023/配給:オンリー・ハーツ