天使に関する近刊概観


そぼ
天使とは?」のコーナーのために、天使について調べてくれてありがとー!
りさ
今回、調べてみて気がついたのは、日本で、天使に関する書籍がとてもたくさんあるということでした。
そぼ
だろうね。コミック(漫画)でもよく見るよ。
りさ
その中から、一応1994年ぐらいからから目についたものを紹介したいと思います。
そぼ
よろしくー!

 

天使についての文化史的なアプローチのために
りさ
その中でも、わたしたちのように天使についてそもそも「知りたい系」から見て、今回とても参考になったものをまず紹介しますね。
りさ
(1)『天使とは何か:キューピッド、キリスト、悪魔』岡田温司著(中央公論新社〈中公新書2369〉、2016年)

手近で、かつ天使という観念やイメージの歴史を知るためにとても役立ちます。

古代諸宗教にある似たような観念の中で天使というものがどのようなものか。たとえばクピド(キューピッド)、プットー(裸童)、スピリテッロ(小精霊)などとの違い、天使の特色、キリスト教的な天使観、美術表現の中の天使と聖人、天使と悪魔、天使と近代人というあたりまで、天使に関する文化史略史でもあり、天使に関する入門書と言えるものです。

京都大学大学院教授(本書発行時)だった著者(1954~ )には、同じ中公新書で『マグダラのマリア』『処女懐胎』『キリストの身体』といった著作がある点が、注目されます。

りさ
(2)『天使と人の文化史』ピーター・スタンフォード著、白須清美訳(原書房、2020年)

きょう紹介する中での最近刊です。(1)をもっと詳しくしたような天使に関する思想史、文化史のスタイルをもっています。

旧約聖書、聖書外典、新約聖書における天使を見ていったあと、イスラム教における天使を概観し、次に教会の教父時代、中世のアシジのフランシスコ、トマス・アクイナス、ダンテにおける天使、そしてルネサンスから17世紀にかけて、さらに啓蒙時代から現代に至る天使像の変化を宗教、文学、美術などからも探っていきます。

著者はイギリスのジャーナリスト、伝記作家(1961~ )とのこと。英文学に多く取材しているところも特徴です。

りさ
こうした文化史的なアプローチからの「天使とは何か」についてはほかに次のものがあります。

(3)『天使の世界』マルコム・ゴドウィン著、大瀧啓裕訳(青土社、1993年/新装版、2004年)

 

(4)『天使:神々の使者』P.L.ウィルソン著、鼓みどり訳「イメージの博物誌」31(平凡社、1995年)

 

(5)『天使とはなにか』フィリップ・フォール著、片木智年訳(せりか書房、1995年)

 

 

哲学的な天使学のために
そぼ
文化史的な本を紹介してくれたけど、それだと、西洋の一時代に盛んになった表象とか観念とかの一つとして天使が問題にされているだけのような気がするな。でも、自分の疑問はいつもミサで、「すべての天使と聖人」というように、今、関係しているところの天使ということなんだけど、そういうところでおすすめの本はある?
りさ
現実存在としての天使を知りたい、考えたいという点に関しては、次の本をまずお勧めします。

(6)『天使論序説』稲垣良典著(講談社〈講談社学術文庫1232〉、1996年)

著者の稲垣良典(1928~2022)は長崎純心大学の教授でした。トマス・アクイナスの『神学大全』の翻訳やこの人についての単著、また『新カトリック大事典』(研究社)における中世哲学に関する項目寄稿などで知られている先生。

天使についての観念、表象、造形イメージの探求ではなく、身体をもたない精神であるところの天使という存在について、ちゃんと学問的に探究することの必要性を現代に訴え、その基礎的理解を明記してくれています。

天使について考えることは、有限な人間存在の実相を知るうえで不可欠だと説いているものです。天使が今のわたしたちに関係のあるリアルな存在であることを考えさせてくれるものとして、あらためて感動を覚えたくらいです。

そぼ
現実の人間を考えるのと、天使についてリアルと考えることとは相関的なんだね。中世の人たちがまじめに考えていたように、現代こそ考えるべきなのかな。
りさ
そういうふうに、哲学的天使論から中世哲学を見直したいというときにも、いくつか日本人の著作があります。

(7)『新版 天使の記号学:小さな中世哲学入門』山内志朗著(岩波書店〈岩波現代文庫 学術401〉、2019年)

 

(8)『天使はなぜ堕落するのか:中世哲学の興亡』八木雄二著(春秋社、2009年)

 

(9)『天使とボナヴェントゥラ:ヨーロッパ13世紀の思想劇』坂口ふみ著(岩波書店、2009年)

そぼ
天使のテーマが中世の人たちの思索世界を身近にしてくれるのかもしれないね。

 

美術絡みの本がとても多い
りさ
とはいっても、天使についてはやはり美術関係の本が多いので発行年順に主なものを見てみましょう。

(10)『天使の美術と物語:カラー版』利倉隆著(美術出版社、1999年)

 

(11)『天使たちのルネサンス』 佐々木英也著(日本放送出版協会〈NHKブックス877〉、2000年)

 

(12)『天使の姿:絵画・彫刻で知る天使の物語』ローラ・ウォード、ウィル・スティーズ著、小林純子訳(新紀元社、2005年)

 

(13)『天使と悪魔:美術で読むキリスト教の深層』秦剛平著(青土社、2011年)

 

(14)『巨匠たちが描いた神と天使と悪魔』新人物往来社編(新人物往来社〈ビジュアル選書〉、2012年)

 

(15)『天使と悪魔の絵画史:キリスト教美術の深淵に触れる』春燈社編(辰巳出版、2019年)

 

天使の百科事典本
りさ
最後に目立つのは、天使に関する事典・図鑑類です。タイトルからわかるものを発行年順に見てみましょう。

(16)『天使の事典:バビロニアから現代まで』ジョン・ロナー著、鏡リュウジ・宇佐和通訳(柏書房、1994年)

 

(17)『天使辞典』グスタフ・デイヴィッドスン著、吉永進一監訳(創元社、2004年)

 

(18)『図説天使百科事典』ローズマリ・エレン・グィリー著、大出健訳(原書房、2006年)

 

(19)『天使の文化図鑑』ヘルベルト・フォアグリムラー、ウルズラ・ベルナウアー、トーマス・シュテルンベルク著、上田浩二・渡辺真理訳(東洋書林、2006年)

 

(20)『絵で見る天使百科:その由来から癒やしの効果まで』クリスティーン・アステル著、白須清美訳(原書房、2016年)

りさ
20冊紹介してみました。装丁を見るだけでも楽しくありません?
そぼ
確かに。これだけ天使についての関心が高い(から発行されるとしたら)というのは、驚いたよ。でも、文化史でも、哲学でも、美術関連でも、事典的知識でもいいのだけれど、やっぱりミサの中で、「聖母マリア、すべての天使と聖人、そして兄弟姉妹の皆さん、罪深いわたしのために神に祈ってください」と毎回祈っているーーその中の天使と自分たちとのリアルなかかわりが気になるなあ。それについて教えてくれる本はないかな~?
りさ
なかなかないですね。それは、典礼神学者に期待することにしましょう!

(構成:石井祥裕)

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

twenty − 2 =