ちょっと変わった天使を描いた映画


中村恵里香(ライター)

天使というとどのような姿を想像するでしょうか。背中に羽が生え、頭にエンジェルリングが乗っている聖画に描かれている「受胎告知」に代表される姿を思いませんか。そして、天使は私たちを苦しめることはないと考えていないでしょうか。天使は私たちの味方というイメージをお持ちではないでしょうか。

天使が主人公の映画はたくさんありますが、今回は、私たちが思うような天使のイメージを覆すたくさんの映画の中から3作をご紹介します。

 

ノア 約束の舟

最初にご紹介する映画は2014年に公開された『ノア 約束の舟』です。この映画は、「創世記」に描かれている「ノアの箱舟」をテーマにしたハリウッドの超大作です。

ノア(ラッセル・クロウ)はある晩、堕落した人間を滅ぼすため、大洪水を起こし、新たな世界を創るという神の宣告を夢見ます。罪のない動物たちを救うため、ナーマ(ジェニファー・コネリー)と3人の息子、そして養女イラ(エマ・ワトソン)と共に、舟を作り始めます。この計画を知ったノアの父を殺した宿敵トバル・カイン(レイ・ウィンストン)が舟を奪おうとします。そこで登場するのが映画内では地球の番人とされていますが、天使です。

この天使の姿が奇妙です。人間を憎みながらも、ノアを信頼し、ノアの計画を手伝おうとするのです。そこからのお話は、ここでお話ししない方がいいでしょう。この映画は、決して聖書通りではありません。ノアの箱舟のお話を拡大解釈し、本当かよと思ってしまうほど、スペクタクルに描かれています。実際のサイズで再現された箱船は大迫力です。

信仰心の厚い人だとこれは聖書に則っていないと怒ってしまうかもしれません。この映画はあくまでも娯楽映画として描かれていますが、私には、そう思えない節が多々ありました。聖書に描ききれなかった部分を肉付けし、人間の愚かさと神への信仰を強く語りかけている映画に思えました。

ここで、私見ですが、映画で聖書を取り上げると、どうしても聖書通りでないと嫌という人は多いのではないかと思います。でも、私はそうは思いません。聖書はとても簡潔な文章で書かれています。ですから、そこから想像の翼を広げると、さまざまな解釈ができるのではないかと思います(こんなことを書くと、神父様に怒られるかもしれませんが)。

私は、その想像の翼を広げた状態で描かれた映画があってもいいと思うのです。映画は教育を目的にしているのではなく、娯楽を目的にしているものが多いからです。

 

レギオン

さて、もう一本異色の天使映画をご紹介。2010年に公開された『レギオン』。神は、堕落した人類を見限り、世界を一掃するために天の軍団レギオンを派遣します。そのレギオンの将軍であった大天使ミカエル(ポール・ベタニー)は、神の命に背き、人間の味方となるため、天使の翼を捨て、壮絶なたたかいを繰り広げるというものです。

最後にレギオンの将軍として出てくるのが大天使ガブリエル(ケヴィン・デュランド)です。天に神様の軍団がいるのもびっくりですが、戦闘服を着た天使というのにも驚かされます。なぜ、ミカエルは、人間を守ろうとするのか。なぜ人間は神に見限られてしまうのか。そして結末は? とにかくハラハラドキドキさせてくれる映画です。

一説によりますと、黙示録をベースに映画が作られたともいわれています。一般的な評価はB級ホラーとされていますが、私はそうは思いませんでした。モハベ砂漠に寂しく佇む一軒のダイナーのウェイトレス、チャーリー(エイドリアンヌ・パリッキ)のお腹には誰の子か分からない子どもが宿っています。その子の存続が人類の鍵を握っています。そのダイナーにいた店主、その息子、客としてきた親子、黒人男性で人類の存続をかけ、モンスターと化した人間や大量の虫などと闘います。

そして最後に鋼鉄の翼を持った大天使ガブリエルの登場です。大天使ガブリエルとミカエルのやりとりは神の存在を信じるのか、神の命令を信じるのかという所でのやりとりとなります。人間の弱さと神の威光を対比的に描いた作品です。

 

約束の葡萄畑 ある醸造家の物語

最後に、異形ではありませんが、ちょっと変わった天使を扱った2010年公開の映画『約束の葡萄畑 ある醸造家の物語』をご紹介します。

この映画は1808年のブリュゴーニュ地方のブドウ畑から始まります。ブドウ農家のソブラン(ジェレミー・レニエ)は、収穫を手伝いに来ていた村娘セレスト(ケイシャ・キャッスル・ヒューズ)と恋に落ちます。しかし、彼女の父親が精神に異常を来していることを理由に結婚を反対されます。ブドウ農家で終わらず、醸造家になりたいと願うソブランは、ヴリー伯爵(パトリス・ヴァロッタ)に売り込みますが、伯爵に一笑に付されてしまいます。

自暴自棄になった彼は酒に酔い、ブドウ畑をさまよい酔いつぶれてしまったところで、天使ザス(ギャスパー・ウリエル)と出会います。ソブランは自分の望みを語り、ザスから人生や愛について助言を受け、1年後の再会を約束します。1年後、セレストと結婚し、最初の子どもを身ごもったことをザスに告げると、ザスからは葡萄の苗木と葡萄作りの奥義を与えられます。それから毎年ザスとソブランは逢うことを約束するのです。

資金を得るためにナポレオン軍に従軍しますが、彼のいない数年間で父は過労で死に、葡萄畑は荒れていました。それからのソブランは葡萄畑と醸造にまさに寝る間を惜しんで、家族を犠牲にして心血を注ぎます。1815年、最初のワインができます。ソブランはそのワインをヴリー伯爵と伯爵の姪でパリから戻ってきた男爵夫人オーロラ(ヴェラ・ファーミガ)に試飲用として届けます。そのワインが注目を集めるのですが、家族の犠牲はますますひどくなっていくのです。

苦しい生活の中、次女の死がきっかけで、妻セレストは精神を病んでいきます。ヴリー伯爵の死後、ワイナリーを引き継いだオーロラはソブランをチーフ醸造家として迎えます。2人のつくったワインは、パリでも評判となっていきます。そんな中、ソブランはザスの秘密を知ってしまい、動揺したことでワインも苦くなっていきます。オーロラは癌の大手術を受け、セレストは心の病が深刻になっていきます。19世紀のフランスを襲った葡萄樹の病害によって葡萄が全滅の危機に瀕しますが、ザスから送られた1本の葡萄樹は生き残ります。ソブランは葡萄づくりを再開します。

ただ、ワイン醸造家の生涯を淡々と描いた映画ですが、そこに天使ザスが登場することで、人生とは何かをワイン造りによって示唆する映画です。この映画の中で、天使ザスは、自らが堕天使となったことを説明した後で非常に示唆に富んだセリフをいいます。

「喪失なしに愛はなく、絶望なしに喜びはない。凶作があるから豊作がある」

ソブランはザスに出会ったことで運が開けたといいますが、ザスは、そうは思っていません。私たちの価値観の中に天国は善で、地獄は悪であり、その中間はないと考えることにも疑問を呈します。

この3本の映画は天使が重要な役割を示す映画です。その中で共通しているのが、私たちの一生は自らが開くものなのか、それとも何かに動かされているのかを考えさせられるところにあります。神を信じ、ただ御旨にゆだねるだけでいいのか。自ら闘うことも必要なのではないか。さまざまな問題提起を私たちに示唆してくれる異形の天使を描いた映画です。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

twenty − four =