片岡弥吉『ド・ロ神父 世界遺産 出津の福祉像』片岡弥吉全集別冊


P.Y.

紹介書籍:

片岡弥吉『ド・ロ神父 世界遺産 出津の福祉像』片岡弥吉全集別冊(智書房 2019年)

片岡弥吉『ド・ロ神父 世界遺産 出津の福祉像』片岡弥吉全集別冊(智書房 2019年)

この本は、初め1977年にNHKブックスから『ある明治の福祉像 ド・ロ神父の生涯』として発行されたものです。「ド・ロさま」として知られ、長崎・外海地方で活躍したパリ外国宣教会の宣教師マルク・マリ・ド・ロ神父(1840~1914)の伝記です。「昭和五〇年、私は、ド・ロさまのふるさとを訪ねた」という一文で始まるその内容は、19世紀半ばのフランス、ノルマンディー地方の貴族の子息がさまざまな教養と能力を身に着け、やがて宣教師として幕末の日本にやってくるという、一種の冒険録の趣も有しています。

宣教師の伝記でありつつ、そのタイトルが初め「ある明治の福祉像」として紹介されたのも面白いところです。ここに近代日本の福祉事業の草創期があるという観点が表の柱になっているのです。実際、ド・ロ神父の、来日(1867年)からの活動の範囲はきわめて広く、プティジャン司教の宣教活動を手伝う「プティジャン版」と呼ばれる出版活動の立役者から始まり、その後、医療救護活動、児童養護、農業・漁業・建築・土木に関する独自の貢献が有名で、その功績は地元で今もよく記憶され、記念されています。宗教者の枠を超えて、日本の西の最果ての地域における一人の「文化英雄」の生涯でもあったといえます。

片岡弥吉『ある明治の福祉像 ド・ロ神父の生涯』(NHKブックス、1977年)

その事跡、その生涯を19世紀フランスの歴史、幕末から明治への日本の転換期の文脈の中に位置づけてみようとする、著者の研究はまさに歴史との対話。その取材と研究のたまものである本書を通して、また今、世界遺産の一部として整えられている出津教会や関連遺産の展示を通して、ド・ロ神父の事跡を知ることは、近代カトリック教会の草創期のみならず日本の近代文明にも、その始まりから展望する視点を与えてくれることと思います。写真や資料引用も豊富で、高校生・大学生など歴史に本格的に興味を抱く年代にとって、とても入りやすい書物であり続けています。

『ある明治の福祉像 ド・ロ神父の生涯』としての出版は、1996年の第三版発行以降、やがて絶版になっていたとのこと。それが、2019年、装丁・表題も新たに片岡弥吉全集の別冊として発行されたことは、前書を愛読していた身にとって、とても嬉しいこととなりました。掲載写真もきれいに製版し直され、口絵には新たなカラー写真も収録されており、ますます魅力的な一冊となっています。日本のキリスト教の今、社会の今を考えるための大きなきっかけと刺激を与えてくれる一冊、なによりもド・ロ神父の宣教師魂が勇気を湧き起こさせてくれるでしょう。歴史の中に心の扉を開こうとするすべての人にお薦めしたいです。

 


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