H.S
紹介書籍:
杉全美帆子『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』(2019年)、『イラストで読む新約聖書の物語と絵画』(2021年)、ともに河出書房新社
私たちがキリスト教について知ろうとするとき、避けては通れないのが聖書です。しかし、こんな経験はありませんか?
「聖書を読んでみるぞ!と思ったものの、その分厚さに読む前からやる気が失せてしまった」
「とりあえず最初から読み始めてみたけれど、長いし難しいしで、途中で断念……」
「出てくる地名や人名、ものの名前が全く分からなくて大混乱」
分かる!と思った方、引け目に思うことはありません。なんせ聖書は2000年も前に書かれた書物ですから、21世紀を生きる私たちにとって馴染みのない表現や名前が出てくるのは当たり前のことです。その上、聖書はあの分厚さ、あの長さで挿し絵の一枚もありませんから、退屈だし、場面も人物も全く想像がつかない。「誰と誰が兄弟だっけ?」とか、「マリアってさっき出てきたマリアとは違うの?!」とか、混乱するのももっともなわけです。
聖書を一人で読破することは、例え熱心な信者さんであっても至難の技です。私もかれこれ22年間カトリックの信者をやっていますが、聖書を頭から最後まで読み切れたことはありませんし、聖書について質問されて上手く答えられないことも沢山あります。「これってどんな話だったっけ……」と首を捻ることもしばしば。
今回おすすめする『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『イラストで読む新約聖書の物語と絵画』は、そんなややこしい聖書の物語を、マンガを読む感覚で簡単に、楽しく知ることが出来るシリーズです。ポップなイラストや聖書の世界の地図、登場人物の相関図などがふんだんに盛り込まれており、聖書を全く知らないという人でも気軽に楽しめる仕様になっています。初めて聖書を読んでみよう!という人だけでなく、気軽に学び直してみたいという人、「そういえばあれ、どんな話だったっけ」と確認したい人、学校や教会学校で子どもに聖書を教える先生方など、聖書に関心をもつ全ての人におすすめしたい本です。
また、本書の特徴は、なんといっても聖書の物語を題材とした絵画の紹介が沢山含まれているところ。皆さんは美術館に行ったとき、西洋の名画を鑑賞してみたけれど、「で、ここに描かれてる人だれ?」「これって結局何してるの?」となってしまい、いまいち楽しみ方が分からなかった……という経験はありませんか? 特に西洋絵画は、聖書や神話を題材としたものが多いですから、元ネタになっている聖書の物語を全く知らないで鑑賞すると、何が何だかさっぱり、となってしまうわけです。
では聖書に詳しければ分かるのか、というとそうとも言いきれないのが厄介なところ。先程も述べましたように、聖書は挿し絵がありません。ですから共通のイメージやキャラクターデザインがありません。したがって、聖書を頑張って読破した人が美術館に行ったとして、絵のタイトルを見て「なるほど、この聖書のエピソードは知っているぞ」と思っても、「ところで描かれているこの人は誰?」ということもままあるわけです。
この本を開くと、それぞれの物語の解説に合わせて、その場面を描いた絵画や彫刻の名作が、丁寧な解説と一緒に沢山紹介されています。どんな場面を描いているのか、描かれている人物が誰なのか、さらには多分こういう会話をしているのでは?なんて想像まで! 「この絵はこういう状況を描いているのか!」ということが一目で分かって、絵画を見るのが一気に楽しくなります。
本書で気になった絵をきっかけに、聖書の元のテキストをじっくり読んでみたり、本書で紹介された絵と同じ物語をテーマにした他の絵画を調べてみたりするのもおすすめ。「なるほど、これがこの人のトレードマークなのね」「この物語は色んな画家がテーマに選んでるんだなあ」「おや、同じ場面を描いた絵なのにこっちとこっちで全然違うぞ!」と、見比べてみるとまた楽しみ方が広がります。美術館のお供にも是非。