風が吹くとき


オリンピックで盛り上がる中、8月は終戦記念日が近くなると、第2次世界大戦の特集がさまざまに組まれます。そんな今、37年前に公開されたアニメーション「風が吹くとき」の日本語吹き替え版が再上映されています。「オッペンハイマー」が話題になって今だからこそ、ぜひ観ていただきたいと思い、ご紹介します。

定年を迎え、イギリスの片田舎で年金生活を送るジム(森繁久彌)とヒルダ(加藤治子)は、どこにでもいる初老の平凡な夫婦です。新聞やラジオで世界情勢のニュースを見聞きするのが日課のジムに対して、妻のヒルダは、新聞や雑誌を読むのは、ゴシップだけと言い切り、政治やスポーツには全く興味がなく、戦争の危機が迫っているとジムが力説していてもまるで他人事のように思っています。

二度の世界大戦をくぐり抜け、子供を育てあげ今は老境に差し掛かった二人ですが、ある日ラジオから、新たな世界戦争が起こり核爆弾が落ちてくる、という知らせを聞きます。政府のパンフレットに従ってジムはシェルターを作り始めます。

先の戦争体験が去来し、二人は他愛のない愚痴を交わしながら備えはじめます。そして、突然3分後に核ミサイルが飛来するとラジオから告げられます。ギリギリで2人は、シェルターに逃げ込みます。爆弾が炸裂し、凄まじい熱と風が吹きすさびますが、2人は爆発の被害をかろうじて避けられました。

すべてが瓦礫と化した中で、生き延びた二人は再び政府の教えにしたがってシェルターでの生活を始めます。

日本で描かれる原爆の映画と異なり、目を覆うばかりの悲惨なシーンはありませんが、どこにでもいる初老の夫婦のたわいない会話を楽しんでいたところに格之被害が襲い、2人はどうなるのかちょっとどきどきします。

今核を切り札として脅しにかかるような世の中になっています。そんな世界の情勢の中で、前半で描かれているありふれた幸せな日常と、後半に襲ってくる原爆の恐ろしさのギャップが衝撃的でもあります。こんな時代だからこそ、多くの人に見ていただきたい作品です。ぜひ映画館に足を運んで観てください。

中村恵里香(ライター)

8月2日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

公式ホームページ: https://child-film.com/kazega_fukutoki/

1986年/イギリス/85 分/原題「When the Wind Blows」©︎MCMLXXXVI/提供:コンテンツ・ポテンシャル/後援:ブリティッシュ・カウンシル/配給:チャイルド・フィルム/配給協⼒・宣伝:プレイタイム

<スタッフ>原作・脚本:レイモンド・ブリッグズ/監督:ジミー・T・ムラカミ /⾳楽:ロジャー・ウォーターズ/主題歌:デヴィッド・ボウイ「When The Wind Blows」/⽇本語版監督:⼤島渚/製作:ジョン・コーツ/製作総指揮:イエイン・ハーヴェイ/アニメーション:リチャード・フォードリー/美術・レイアウトデザイン:エロル・ブライアント/技術:ピーター・ターナー/プロダクション・コーディネーター:アン・ゴドール/特殊効果:スティーブン・ウェストン

<声の出演>ジム:森繁久彌 ヒルダ:加藤治⼦


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