中村恵里香(ライター)
ミャンマー(ビルマ)といわれ、一番最初に思い出すのは、「ビルマの竪琴」ではないでしょうか。ビルマの竪琴は、1945年夏、敗走する日本軍を描いた名作です。1956年に市川崑監督によって映画化されましたが、その後1985年にも市川崑監督によってキャストも新たに映画となっています。ただ、残念なことに1956年当時、世界情勢が困難な時代にあり、撮影はビルマではなく、軽井沢で行われ、1985年には、ビルマが騒乱状態にあったため、隣国のタイで行われています。今でも名作といわれている作品ですが、実際の撮影場所が現地でないということは、少し残念な気がします。
さて、ほかに日本映画の中でミャンマーを描いた作品はないのでしょうか。ミャンマーを舞台にした作品も、日本にいるミャンマー人を描いた作品もありますので、ご紹介します。
1991年、ビルマ(現ミャンマー)軍事政権の弾圧から逃れ、家族を残したまま政治難民として日本に渡ってきた青年チョウチョウソー(チョウ)の14年間を記録した在日ミャンマー人ドキュメンタリーです。生活のためレストランで働きながら、祖国では禁じられていた民主化運動を続けていきます。家族や祖国への思いと、民主化運動のためにその思いを捨てなければいけないという現実の狭間で揺れ動くチョウの姿を通し、国や国家、故郷とはなにか、愛国心とはなにかを問う作品です。
- 監督:土井敏邦
- 2012年製作/100分/日本/配給:浦安ドキュメンタリーオフィス
日本とミャンマーを舞台に、在日ミャンマー人家族に起こった実話をベースに描いたドラマ。東京にある小さなアパートにケインと幼い2人の息子たちが暮らしています。夫のアイセが入国管理局に捕まってしまったため、ケインは1人で家庭を支えていました。日本で育ったため、母国語が話せない子どもたちに、ケインは不慣れな日本語で精いっぱいの愛情を注いでいましたが、兄弟は父親に会えないストレスからケンカを繰り返す毎日です。そんな日常から、今後の生活に不安を抱くようになったケインは、生まれ育ったミャンマーへ帰りたいという思いが募っていきます。
- 監督・脚本・編集:藤元明緒
- 2017年製作/98分/日本・ミャンマー合作/配給:E.x.N
日本とミャンマー、二つの祖国の狭間で葛藤するミャンマー人女子高生のひと夏を追った青春ストーリー。東京で暮らすミャンマー人の女子高生ナンは日本で生まれ育ち、自分を日本人だと思って生きてきました。ある日、ナンは父親のサイがナンを連れてミャンマーに帰国しようと考えていることを知ります。サイは30年前にミャンマーの民主化運動に参加した影響で国を追われ、日本に難民として移住したのですが、彼の心はずっと祖国ミャンマーと共にありました。
- 監督:チー・ピュー・シン
- 2018年製作/130分/日本・ミャンマー合作
ミャンマー北西部のチン州少数民族ゾミ族の一団が、日本兵の遺骨を発掘するため、かつて第二次世界大戦の戦場だった場所に向かいます。鍬を振るう若者たちの手によって地表から立ちのぼるのは、かつての争いの記憶です。
- 監督:藤元明緒
- 2020年製作/16分/日本/配給:E.x.N