連続在任2822日を誇った歴代最長在任総理大臣・安倍晋三氏が銃撃によって亡くなって8か月。安部氏は何をしたのか。そしてなぜ銃撃されることになったのか、政治の世界ではその検証もなされないまま、今も安部氏の影響下のもと、日本は動き続けています。そんな状況の中、安倍晋三という人が何をなしてきたのか、そのバックグラウンドはどんなものなのかを検証する作品『妖怪の孫』が公開されています。
タカ派的な外交政策、「大胆な金融政策」「機動的な財政運営」「民間投資を喚起する成長戦略」といういわゆる“三本の矢”に代表されるアベノミクスという経済政策、「自由で開かれたインド太平洋戦略」や日米同盟の強化など国際的な評価も高かった卓越な外交力、そして「特定秘密保護法」や集団的自衛権の行使を可能にする「安全保障関連法」等々、これまで誰もなしえなかった施策を、安部氏は次々と成立させます。
その一方で、官僚の人事を掌握するための内閣人事局の設置や、省庁からの反対意見を封じる強力な官邸主導型政治の確立など、強行で手段も厭わない政治姿勢は、反安倍の動きも広めることになります。反森友・加計問題や、桜を見る会等に関して対立する意見には敵意をむき出しにするなど長期政権の弊害と呼ばれる問題が次々と浮上します。
本作は、また、岸信介から始まる統一原理の問題にも言及し、そんな安倍政治とは何だったのかをていねいにインタビューし、追っていきます。「昭和の妖怪」といわれた母方の祖父・岸信介にすり込まれた野望、憲法改正をなぜ前のめりになって推し進めようとしたのかも証言によって明らかになっていきます。
私がこの映画で証言者たちの言葉に驚くことが多々ありました。皆さんにぜひ観ていただいたいので、詳細は省きますが、安倍という人が何をもたらし、何をしようとしたのか、そして、それが受け継がれている今の政治を注視していく必要を深く感じる作品です。政治に関心がないという人にもぜひ観ていただきたい映画です。今、宗教二世などという変な言葉が流布し、宗教に対する風当たりが強くなっている中、こんな社会になった源泉も描かれています。
また、監督の内村雄人氏は、今この時期にこの作品を公開することに「この映画を見ることによって、今の自民党のやろうとしていることの背景や大きな狙いが見えて来るのではないかと思ったからです。直截な批評をする気はありません。岸田政権にどれほど安倍さんが影響を与えているか、与え続けているか?昨年末から今年にかけて、『丁寧な説明』とはかけ離れた強硬な政策決定ばかりが続き、安倍さんすら決断しなかったことが次々と実現されようとしている。まさに歴史の転換点と言ってもいいでしょう。マスコミもこの異常な事態に客観的な視点で大きく伝えているとは言えません。私は今、本当に危機感を感じています。ルールの破り方、物事の進め方など安倍さんを見ることで今の自民党政権のやり方が見えると思います。背景にあるものは何か。この映画を見て知って欲しいです」と述べています。ぜひ映画館に足を運んでご覧ください。
中村恵里香(ライター)
3月17日(金)より、新宿ピカデリー他、全国公開
公式ホームページ;https://youkai-mago.com/
企画:河村光庸/監督:内山雄人/企画プロデューサー:古賀茂明/ナレーター:古寛治/音楽:岩代太郎
2023年/日本映画/115分/製作:「妖怪の孫」製作委員会/制作:テレビマンユニオン/配給:スターサンズ
©2023「妖怪の孫」製作委員会