3 ロザリオに関する聖歌


松橋輝子(東京藝術大学音楽学部教育研究助手、桜美林大学非常勤講師)

10月は、カトリック教会において教皇レオ13世(在位:18781903)によって「ロザリオの月」と定められている月です。そこで今回は、ロザリオに関する聖歌をつ紹介したいと思います。

ロザリオは15世紀以来カトリック教会において広く親しまれる祈りであり、伝統的に、イエス・キリストとその母マリアの喜び(第1環 受肉)、苦しみ(第2環 苦難)、栄え(第3環 復活、昇天、聖霊降臨)の秘義に関してそれぞれ5つの黙想を行うものです。教皇ヨハネ・パウロ世(在位:19782005)はさらに、イエスが神の国の福音を告げ知らせたことを内容とする「光の秘義」を導入しました。このようにロザリオの祈りは、マリア信心やマリア崇敬の伝統とともに、カトリック教会の中で祈り続けられてきました。教皇ヨハネ・パウロ2世は2002年に、ロザリオの祈りを聖性への要請の一つとして位置づけ、「マリアとともにキリストを観想する」すぐれた祈りとして復興するように求めましたi

 

 「星かげくらき空」

はじめに、伝統的なロザリオの祈りの形式に従った歌詞を持つ聖歌を紹介します。現在の『カトリック聖歌集』(1966年)に含まれている四旬節の聖歌「星かげくらき空」は、1918年の『公教會聖歌集』以来、受け継がれてきている聖歌です。(なお、1948年に聖歌集の大規模な改訂が行われたときにその伝統的な歌詞の形式は失われてしまいました。)

日本における元来の歌詞は、写像でわかるように、ロザリオの「苦しみの秘義」に沿う形で5節の構成(1. ゲッセマネの苦しみ、2. キリストの鞭うち、3. いばらの冠、4. 十字架を担うキリスト、5. 死去)を取っています。当時の解説には、この聖歌が、通夜の式などにロザリオと並行して用いることができるii、と評されています。この聖歌のドイツ語原曲〈Am Ölberg, in nächtlicher Stille〉においても、同様の5節構成がとられており、各節の冒頭には、「1.私たちのために血を流された方」、「2. 私たちのためにむち打ちにされた方」、「3. 私たちのためにいばらの冠をかぶられた方」、「4. 私たちのために重い十字架を担った方」、「5. 私たちのために十字架にかけられた方」と注記がありますiii

この聖歌に関する評釈が出版された当時の聖歌集『公教聖歌集』1933年(初版)

バチカン公会議以前の典礼においては、ミサは人々が理解できる言語でもなく、信徒によるミサの理解もなく、信徒がその神秘に預かることは極めて難しい状況にありました。そこで、ミサ祭儀の間に信者がロザリオやミサ信心の祈りを唱えたりすることもまれではありませんでしたiv。ロザリオは多くの聖歌とともに、人々の信仰を支え、親しまれた祈りの形式といえるでしょう。

 

「野ばらのにおう」

初めに述べたとおり、ロザリオはマリア信心と密接に関係しているため、ロザリオに関する聖歌は聖母賛歌に多く見られます。このような特色を持って、最も広く親しまれているロザリオの聖歌としては、『カトリック聖歌集』に収録されている「野ばらのにおう」が挙げられるでしょう。この聖歌は、髙田留奈子氏によって作曲されたものです。多くのミッションスクールでこの聖歌はロザリオの祈りとともに歌われています。

野ばらのにおう ルルドの岩屋 ファティマの丘の楡(にれ)のはやしに

  現れましし み母のみ手に 揺らぎかかれる ロザリオの珠

 

美しい旋律に乗せられた歌詞の中では、フランスのルルド(1858年)、ポルトガルのファティマ(1917年)における聖母出現のことが触れられており、ロザリオの祈りとマリアに対する崇敬との結びつきがよく示されています。

 このような日本人による日本語聖歌は聖歌集の改訂を経る中で加えられ、翻訳聖歌と並んで、日本語聖歌のレパートリーをなしています。祈りの中で作られ、日本の心が映し出された聖歌をぜひ味わってみてはいかがでしょうか。

 

i 鈴木宣明、石井祥裕「ロザリオ」『新カトリック大事典』 東京:研究社、2009年、第巻、14481450頁。

ii2 小倉慮人「新聖歌集評釋(七)」、『日本カトリック新聞』 1934325日(441号)、頁。

iii3 Joseph Mohr, Lasset uns beten!: Katholisches Gebet- und Gesangbuch. Pusset: 1881. pp.468-469.

iv4 レジモン・ヴァルギース、『典礼憲章』の「行動的参加」の神学について、『南山神学』37 号、2014 3 月、149168頁。

Ⅴ5 髙田留奈子氏(19192020)は、作曲家髙田三郎氏夫人。オリエンス宗教研究所発行月刊誌『福音宣教』20082~4月号「歌の祈りを響かせて―作曲者にきく」第4~6回「野ばらのにおう(ロザリオの珠)」の髙田留奈子さん」参照。


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