『うんこ!』作:サトシン、絵:西村敏雄、文溪堂、2010年。
定価:1,430+税 32ページ
【注意!! お食事中の方はご遠慮ください】
ここに一冊の本がある。タイトルは『うんこ!』
最初に書店でこの本を見つけた時、「何というタイトルなのだろう」と思った。しかし、ページをめくるたびに「この本は、今の社会を映し出している。主人公のように、苦しんでいる人、虐げられている人がいる」と考えさせられた。
うんこを題材にユーモアを交えながら物語は、進んでいくのだが、本の表紙、そして見返しを開くと「おそとの けしきが みえてきた。」という言葉で始まっている。丁寧に読まないと読み飛ばしてしまうような、場所にポイントがあり、1ページが始まる前から、作者のユーモアが隠されている。
物語は、一匹の犬が電信柱の側で「うんこ」をしてそのまま去っていくところから始まる。ここで主人公のうんこの誕生である。そこへ、ネズミが近づいて来て「おやおや、だれかたと おもったら、うんこか」と言ってくん くん くんと匂いを嗅ぐ。しかし、次のページで「くっさー!」と言って逃げていく。うんこは「くっそー!」と言って悔しがるのである。同じように、へび、うさぎが近寄っては、「くっさー!」と言って逃げていき、うんこは「くっそー!」と言って悔しがるのである。
ここで面白いのは、それぞれの動物は、一応、うんこに興味を持って近づいてくるのである。そして、わざわざ、匂いを嗅ぎ、逃げて行く。その逃げ方もさまざまであるが、匂いを嗅ぐ前と嗅いでからの表情が個性豊かである。さらに、「くっさー!」と「くっそー!」は、ボールドで強調されて書かれてあり、どれだけうんこが臭いのか、また、うんこが「くっさー!」と言われて、傷つき、悔しがっているのかが手に取るように伝わってくる。
うんこは、「まったく、みんな、ひどいじゃないか!」と思い、「こんなところに いつまでも いたら、干からびるだけ。なかまを さがしに でかけよう!」と思い、「うんこらしょっと!」腰を上げ、歩き始める。これは、うんこの自立を表しているのではないだろうか。
うんこは、歩いているうちに野菜畑でおひゃくしょうさんと出会う。おひゃくしょうさんは、うんこを見て「なんとまあ、りっぱな うんこじゃ! どうじゃろう、わしのはたけで やさいたちの こやしになってくれんかのう? はたけには、おまえさんの おなかまも いっぱい おるぞ」と言う。
うんこは、「こいつは、うんが ついてきたぞ」そして「うん!」とひときわ大きく頷くのである。この時のうんこの表情がたまらない。笑顔に満ち、手は握りしめ、ガッツポーズを作っている。うんこは、今まで散々、毛嫌いされ、虐げられて気きたのであるが、ここで初めて自分を認めてくれる人と出会い、さらに、仲間とも巡り会うことができたのである。うんこは、どれだけ喜んだことであろう。
うんこは、他の仲間のうんこと一緒になって、おひゃくしょうさんの手によって畑にまかれ、美味しい野菜を育てる働きが与えられる。最後のページは、うんこが土の中に入って、野菜のための肥料になっている。その姿は、もう「うんこ」ではなく、土と同化している。これは、天国の状態ではないだろうか。
この本は、社会の中でいじめにあっている人、いろいろな差別を受けている人、または、自分の行き場を求めている人に希望を与えるのではないだろうか。ただの絵本として終わるのではなくそこから湧いてくる内容の深さに感銘を受けた一冊である。
井手口 満(聖パウロ修道会 ブラザー)
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