Doing Charity by Doing Business(34)


山田真人

今までの連載の中のテーマの一つが、カトリック教育でした。カトリック学校の教育は、単に知識や技能を身につけるためのものではありません。その根底には、「なぜ生きるのか」「誰のために働くのか」という問いが流れています。人格の形成、尊厳の尊重、奉仕への志向、そして召命の発見もその中に含まれているでしょう。

光ヶ丘女子高等学校で行ったリベラルアーツカフェの様子

こうした教育の価値は、学校の中だけで完結するものではなく、本来は社会の中で実を結ぶべきものです。その接点となり得るのが、NPOというセクターです。NPO法人せいぼの活動は、学校給食支援という具体的事業を軸にしながらも、単なる慈善活動にとどまりません。経営という枠組みの中で、カトリック的価値をどのように実装するかを問い続けています。ビジョンを掲げ、ミッションを定め、それを具体的事業へと落とし込むという構造は、一般企業と変わりません。しかし、その中心に置かれているのは利益の最大化ではなく、人間の尊厳と共通善です。

ここで重要になるのが「人的資本」という考え方です。

近年、企業経営において人的資本の重要性が強調されていますが、カトリック的視点から見ると、人は単なる資源ではありません。人は神に愛された存在であり、固有の尊厳と使命を持つ存在です。したがって、人的資本経営とは、人を効率的に活用することではなく、一人ひとりの内面の成長を支え、その賜物が社会のために活かされる環境を整えることだと言えます。

NPOの現場では、ボランティアやインターン、アルバイトとして関わる若者がいます。そこでは売上や成果も問われますが、同時に重視されるのは内的報酬です。自律性、有能感、関係性という基本的欲求が満たされるとき、人は自発的に動き始めます。奉仕は義務ではなく、喜びへと変わります。このプロセスこそ、カトリック的人材育成の核心になると考えています。

カトリック教育が目指すのは、「良い人」になること以上に、「与えることで社会を変える人」になることです。そのためには、価値観を言語化する力が不可欠です。自分は何を大切にしているのか、なぜその選択をするのかについて語れる人は、異文化や異世代の中でも自信をもって対話することができます。NPOという実践の場は、その訓練の機会を提供します。社会課題に触れ、企業と連携し、経済の仕組みを学ぶ中で、学生は自分の立ち位置を問い直します。

ここで見えてくるのが、NPO・学校・企業の新しい人材育成エコシステムです。学校が理論と価値観の土台を築き、NPOが実践の場を提供し、企業が経済の中でその価値を実装するという流れができます。この循環の中で、人は単なる労働力ではなく、社会をより良い方向へ導く担い手へと成長していきます。

NPO法人せいぼは、世界中からのインターンの受け入れをしています

しかし、カトリック学校にはさらに深い可能性があります。それは、社会に接続された成人が、信仰への問いを非明示的に始める場となることです(参考:越智直樹「ローマ・カトリック教会の段階的キリスト教入信制度における『教えを受ける前の期間』についての研究―学校宗教教育の神学的基礎づけを目指して―」上智大学大学院神学研究科博士論文、2024年)。

段階的入信の研究において指摘されているように、洗礼に至る前には「教えを受ける前の期間」があります。そこでは、すでに信仰を持っているわけではないものの、共感や好意を抱く「好意者」が存在します。彼らは人間的交わりを通して、少しずつキリスト教的価値に触れ、やがて志願者へと歩みを進めます。この非明示的な入信段階は、現代日本において極めて重要です。

NPO活動は、この段階の土壌となり得ます。福音を直接語らなくとも、他者のために働く喜び、与えることの充実、連帯の経験は、人の内面に問いを生み出します。「なぜ私はこのような生き方に惹かれるのか」という問いは、やがて「この価値の源はどこにあるのか」という問いへと変わります。その価値観へ目を向けることができる経済活動が、NPOの中に見いだせるかもしれません。

 

山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。

 


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