山田寛幸(六郷土手駅前こころとからだの痛みクリニック 院長、「こころとからだの痛み研究会」 代表世話人)
今回から、定期的に文章を書かせていたく事になりました、精神科医の山田寛幸です。よろしくお願いいたします。
まずは、簡単に経歴を述べます。東京出身で横浜育ち、10代の頃に父親の転勤のために佐賀市で4年過ごしました。生来、色覚異常があり「医者は無理だ。」と親に言われて育ちました。それに従った訳でもありませんが、最初の大学では工学部に、その後、他大学の医学部に入りました。
卒後は麻酔科医になり、7年目くらいから痛みの治療が専門になりました。痛みの治療はなかなか難しく、心理療法が必要と考えてカウンセリングを学び、一方、漢方、鍼治療も治療に必要と考えて習得しました。
大学病院には10年ほどいましたが、その後、横浜ランドマークタワーで「こころとからだの痛み外来」という精神科
とペインクリニックの外来をしばらく運営していました。さらに精神科医として研修すべく、精神病院勤務、精神科クリニック勤務、精神科訪問診療などを経て、今年から新たに「六郷土手駅前こころとからだの痛みクリニック」で精神科、ペインクリニック、漢方内科の外来を始めました。ちなみに、趣味は多数あって、音楽、絵画、骨董などなどです。
また、20年以上前から「こころとからだの痛み研究会」を主催しています。これは心身両面から「痛み」「苦しみ」を治療する方法を勉強する事を目的にしていて、毎年4月と10月の第2日曜日に学術集会を開いています。医療関係者だけではなく一般の方も参加可能です。
さて、1960年代の映画「カッコーの巣の上で」(ジャック・ニコルソン主演)は精神病院を舞台にしたもので、観た
方もいらっしゃると思います。この映画は、刑務所の強制労働を逃れるため精神異常を装って入院した主人公が、病院スタッフからの偏見や差別などと闘うというものです。
また、Westen著の心理学の教科書に、統合失調症を装って精神病院に入院する事例が載っています。入院後は精神症状を全く訴えずにいても、経験の少ない若手医師とベテラン医師との間で、入院日数の差が大きかった、つまり、ベテラン医師の方がなかなか退院許可を出さなかったと書いてあります。
ところで、日本は世界でも精神病院が多いと言われています。日本の精神病棟のベッド数は約33万床と、世界中の精神病床の約20%を占めています。
かつて、イタリアにフランコ・バザーリアという精神科医がいました。彼はゴリツィアの精神科病院長に赴任した時に、鉄格子で囲まれた隔離部屋や、患者に対する強制投薬、身体拘束が当たり前のように行われている病院に実態に驚きました。当時のイタリアの精神科病院は「病院」という名の「刑務所」に、「患者」という名の「囚人」が隔離され人知れず死ぬ、まるで収容所のようだったのです。このことを世に知らしめるため、写真集の発行、テレビ放映、本の出版などで、いわゆる内部告発を行いました。
余談ですが、ある医史学の本に、18世紀のフランスで精神病院見学ツアーがあったそうです。精神疾患患者、犯罪者などが一緒にされて、男女の区別もない劣悪な環境下で収容されているのを見世物にしていたと記載があります。
その後、彼は1970年にトリエステの精神病院院長に就任後、知り合った県代表の政治家ミケーレ・ザネッティと共に精神病棟への改革を進めました。イタリア全土の精神科病院を解体し、地域の精神保健センターへ全面転換を図ることを決めた精神保健法(180号法、別名バザーリア法)を制定しました。その後、紆余曲折があり、やっと20年以上が経って、イタリア全土で精神病棟の閉鎖が完了しました。イタリアでは現在、単科精神科病院が廃止されましたが、精神病床自体が無くなったわけではなく、精神病床は総合病院に最大16床まで設置できるようです。
では、なぜ、日本とイタリアの精神病棟のベッド数にかなりの差があるのでしょうか?それは日本の医療政策に問題があります。1960年代の日本では欧米とは逆行し、精神疾患の患者の隔離政策が進められていました。日本の場合、精神科病床の約80%を民間病院が経営しており、諸外国と真逆に公立病院が圧倒的に少ないという現状があります。また精神科は職員の人数の特例基準が設けられており、一般病床より少人数で運営することが認められています。さらに、入院診療報酬単価が一般病床の約30%程度しかなく、そういった現実から、患者を長期入院させなければ経営が成り立たない実情があります。つまり「薄利多売」の状態にあるのです。そのため、看護師の職員数が一般病床に比べて、50%以下しかいなく、医師に関しては30%を切っています。
最後に、20年ほど前に、私が某精神病院で経験した症例をご紹介します。60歳代の女性患者さんが長期入院していました。病名は統合失調症です。症状は全くなく、処方薬は下剤のみでした。その方に退院希望がないのかを聞きました。答えは、「生活保護ですが、退院して一人で都内のアパートで生活する自信はありません。今が人生で一番幸せです。」でした。
今回は、特に日本の精神病院につき、問題提起を行いました。今後、改善される事を願いつつ筆を置きます。
六郷土手駅前こころとからだの痛みクリニック HP:https://rokugo-dote-mental.clinic/


