山田真人
今まで筆者は、青年司牧と社会経済の中での召命をテーマに、NPO法人せいぼにおけるビジネスとチャリティの姿に触れながら記事を連載してきました。30回を超えた今回は、2025年10月に開催されたThe Meeting of the Committee for the Renewal of Global Comapact on EducationとClub of Romeの集会を受けた報告レポートを通して、今後の青年司牧についての具体的な提案を、今までのまとめとして出してみたいと思います。
NPO法人せいぼは、「生まれてくる命を大切にし、教育と食を通して未来をつなぐ」という使命のもと、マラウイのカトリック学校で給食支援を行っている日本のNPOです。この歩みは、教皇フランシスコが提唱した「Global Compact on Education(GCE)」の理念と深くつながっています。GCEが掲げる「人間中心の教育」と「新しい経済と政治の理解」という方針に共感し、せいぼは教育を「希望を生きる実践」として位置づけ、「食」と「学び」を通して命と共同体の尊厳を守る教育を進めています。
GCEは、教育を単なる知識の伝達ではなく、「人間の尊厳」「共通善」「共通の家のケア」を育てる文化形成として捉えています。その精神は教皇フランシスコの回勅『兄弟の皆さん』や『ラウダート・シ』に通じ、七つの原則、すなわち人間中心、若者の声、女性の活躍の促進、家庭支援、社会的正義、経済と政治の刷新、環境ケアとして示されています。2025年に向けて、「クラブ・オブ・ローマ」から発表された「Education for Hope」は、教育を「希望を生きる行為」と定義し、人と共同体、そして世界の関係を新しく結び直す使命を掲げています。
ここでは、アフリカやアジアを中心に、地域を横断する「教育的星座(Constellation)」の形成が呼びかけられ、せいぼの日本・アフリカ連携の教育実践とも響き合っています。
せいぼは、マラウイでの給食支援と日本国内のカトリック中高との連携を通して、世界の環境全てを教育の場所にしていく、「教育の村(Global Village)」という理念を形にしてきました。フェアトレード・コーヒーを題材にしたソーシャルビジネス学習では、生徒たちが「食」「経済」「信仰」を結びつけながら、世界との関係を体験的に学びます。
こうした教育実践は、アジア司教協議会連盟(FABC)が推進する青年司牧の流れとも深く関係しています。FABCでは、多宗教・多文化社会における対話と包摂を司牧の柱とし、若者が祈り、識別し、奉仕と学びを通して信仰と社会をつなげることを重視しています。GCEが強調する「若者の声を聴く」という姿勢は、まさに青年司牧の中心的な考え方と一致します。若者が受け身ではなく、教育と社会の主体として関わることこそが、「共に歩む教会(Synodal Church)」の具体的な姿です。
せいぼは今後、GCEの国際会議で示された方向性を踏まえ、三つの取り組みを進めていきます。第一に、日本・アフリカ・アジアをつなぐ「Hope Learning Labs」を設立し、学校や大学、小教区を横断した学びとサービスラーニングの拠点を作ります。Ubuntu思想や『兄弟の皆さん』の霊性を土台に、探究・サービスラーニング・研究を統合した教育モデルを実践し、若者が主体的に学ぶ環境を整えます。この「Hope Learning Labs」は、まず学校の課外活動のグループなどが、その主体として第一に行動できると考えています。
第二に、青年司牧と教育司牧を統合し、受洗前後から若手社会人期までを見通した連続的カリキュラムを整備します。祈りによる識別、メディア倫理、身体性と関係性の教育、職業召命などを体系化し、生涯にわたって成長できる学びを目指します。こちらはまず、NPO法人せいぼが関わっている教育の青年会や日曜学校などと協働していければと思います。
第三に、全国的な「Global Village」ネットワークを拡大し、学校・教会・企業・NPO・自治体が協力して、地域の貧困や孤立、学習機会の偏在といった課題に取り組む体制を構築します。こちらは、日本カトリック教育学会などの団体や各学校の管理職の皆様のご協力を得ながら、ネットワークをさらに拡大していければと思います。
また、青年たちの参画を一時的なイベントではなく制度的に定着させるために、「GCEユース・フェローシップ」や「ユース評議会(Synodal Youth Councils)」を設け、若者が企画や予算に主体的に関わる仕組みを作ります。今まで国際的に活動してきた青年をメンターに置き、イベントの前後で参加する青年が主体的に関わり続けていく形を作っていきます。
日本の教会は人口的には少数派ですが、約800校のカトリック学校という豊かな教育資源を持っています。この教育ネットワークは、アジアとアフリカを結ぶ“橋”となる可能性を秘めています。教育は信仰を社会に伝える公共の言語であり、若者が社会の中で福音的価値を生きる道でもあります。せいぼはその歩みを通して、「希望を生きる教育」から「教育に生かされる希望」へと、信仰と社会を結ぶ実践を続けていきます。
最後になりましたが、以上のような活動に関心を持って下さる方は、是非ご連絡を頂ければと考えております。お問い合わせは、こちらからになります。
山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。



