「風琴」〜あるリードオルガン修復家のあしあと〜


子どもの頃、小学校の教室の一番前に置かれていた足踏みオルガンは、リードオルガンといい、明治時代には「風琴」と呼ばれていたといいます。 そもリードオルガンは、日本では世界に類を見ないかたちで普及し、日本が世界最大の産地になっていたといいます。しかしながら、現在では世界中どこを見てもこのオルガンを製造するところはなくなったそうです。

そんなリードオルガンの現在は、今どうなっているのかを紹介するドキュメンタリー映画があります。

長野県在住の修復家・和久井輝夫さん(1937年生まれ)は、リードという金属片が振動して鳴るこの複雑なオルガンを修復し、メンテナンスができる数少ない存在です。この作品は,オルガンの歴史と共に和久井さんが日本各地で手がける修理の様子を追いながら、その魅力を支えるさまざまな人々を描く作品です。この作品の中には、オルガンを愛するひとたちが、描かれています。

リードオルガンは、19世紀後半にヨーロッパやアメリカから輸入され、日本の楽器メーカーもこぞって生産しました。足踏み板を踏んで風の流れを作り、吸い込まれた空気が、内部に嵌め込まれたリードという金属を振動させて音が鳴ります。教会や学校だけでなく、昭和中期には家庭にも普及したオルガンです。見た目はシンプルなものから、工芸品的な立派なものまであり、発音機構は外から見えにくいので意外と複雑です。

和久井さんは「空気を吸い込んで音が鳴るので、自分の呼吸に似た自然な安心感がある。踏み加減で幅広い表現ができる」「やっぱりこのリードオルガンにしかできない音楽、出ない音楽っていうのがある」と語ります。

東日本大震災で津波にのみ込まれた陸前髙田市立博物館のオルガンや愛知県犬山市の明治村が所蔵していた1890年代製造のアメリカ製オルガンなど、和久井氏の手によって修復されたオルガンの音色と共にその魅力を伝えている作品です。

今や製造されていないので、知らない世代の方が多いと思いますが、風を通した木の箱で響くやさしい音色は、とても魅力的です。

子どもの頃、教室で,聖堂で当たり前のように聞いていたこのオルガンの音色は、まるでオルガンが呼吸しているような優しい音色です。この作品を通してこのオルガンの音色がひとりでも多くの人の耳に届き、新しい音楽家によってこのオルガンならでは魅力ある音楽を奏でることを願うばかりです。

中村恵里香(ライター)

公式ホームページ:https://fukin.koberecs.com/

【兵庫県】元町映画館(8月2日~ 8日)

【大阪府】シアターセブン(8月16日~22日)

【静岡県】シネマイーラ (10月3日~9日)

監督・構成:黒瀬政男

製作プロデューサー:善沢志麻

製作:映画「風琴」製作実行委員会

撮影: 黒瀬政男、 神吉良輔 撮影助手: 佐藤佳奈子、 山添元晴、 末岡志月 音楽録音: 善沢正博 整音: 湯原大地 ナレーション: 徳永爽 サウンドデザイン: コウベレックス BGM提供: 池田奈生子、 神戸市室内管弦楽団 ほか

出演:和久井輝夫、 中村証二、 相田南穂子、 赤井励、 イマイアキ、伊藤信夫、 伊藤園子、 上島一高、 小川瞳、 桜木レンカ、 スコット・ショウ、 鈴木真緒、 高井郁代、 田中依子、 中村治、 平井真美子、 松本花、 和久井知恵、 和久井紀子、 和久井真人、 須坂教会のみさん 他

ロケ地:工房和久井(長野県須坂市)、 須坂市立仁礼小学校、 高野辰之記念館、 陸前高田市立博物館、 宮内庁楽部、 日本キリスト教団神戸聖愛教会、 須坂教会、 倉敷教会、 松山教会、 善通寺教会、 カトリック北須磨教会、 聖グレゴリオの家、 浜松市楽器博物館、 博物館明治村、 アトリエ・ピアノピア、 白亜荘、 松山東雲中学・高等学校 他


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