原爆スパイ


ロシアによるウクライナ侵攻で最後の切り札として当たり前のように原爆を口にする世の中になっています。2024年3月に「オッペンハイマー」が話題になっていましたが、私たちの知らないその裏面史ともいえるドキュメンタリー映画が公開されます。

1998年3月、カメラに向かって穏やかな老夫婦が語り始めます。
彼らが語り始めたのは、52年にわたり家族が守り続けた、驚くべき ある秘密でした。

最年少の18歳で“原爆の父”オッペンハイマーの下でマンハッタン計画に参加した天才科学者、セオドア・“テッド”・ホールは、原子爆弾の威力を知るにつれ、「アメリカの原爆独占は危険だ」と考えるようになります。ホールは、盟友サヴィ・サックスと共にソ連へ機密情報を密かに提供することを決意します。

米ソ間で競うように開発され、広島・長崎へと投下された原子爆弾。戦後冷戦構造、その後激化していく軍拡競争へと時代は移っていきます。彼らの行為は“正義”か、それとも“裏切り”か? ソ連に機密を渡し続けたテッド・ホールの行動の裏には、

核の脅威を憂う彼自身の信念がありました。

その一方、FBIの監視に怯え、いつ逮捕されるかわからない日々を生き抜く中で、秘密を共有し支えたのは家族の存在でした。妻ジョーン、そして子どもたちは“スパイの父”をどう受け止め、共に生きたのでしょうか。父として、科学者として、テッドが次世代に遺そうとしたメッセージとは何だったのかぜひ映画館へ足を運んで観てください。

この作品を観て、アメリカ側からソ連へ原爆機密が漏れていたということは驚き意外ありませんでした。

また、映画の中で、アイゼンハワーは日本は降伏することを模索しているといったような考えを表しています。科学者たちが当時の大統領トルーマンに「日本への原爆投下をやめるべきだ」という書簡を書いた者もいたといいますが、残念ながら届かなかったようです。

アメリカの一部の人たちは、「原爆によって日本は終戦を決定した」、「日本は原爆を落とされたから敗戦した」と言いますが、本当

 

に原爆は必要なものなのでしょうか。抑止力という言葉がさも必要なものといったように語られますが、私には原爆は余計なもののようにしか感じられ

ません。

セオドア・“テッド”・ホールは、「私は原爆の秘密をロシア人に渡すことに決めた。なぜなら私には、まるでナチス・ドイツを作るように一つの国を軍事的脅威に変え、その脅威を世界に野放しにすることになる”核の独占”などあ

ってはならないということが重要に思えたのだ。これにあたって、一人の人間がなすべきことは、たった一つの答えしかないように思えた」と語っています。原爆が作られた事実の中で、核の開発競争が世界の紛争の一端をになっているような世界で、本当に核は筆代媼ものなのか、私たちに問いかけているように思います。

中村恵里香(ライター)

8月2日(土)渋谷ユーロスペースにて緊急ロードショー 以後全国順次公開

公式ホームページ:http://genbakuspy-movie.jp/

監督:スティーヴ・ジェームズ

原題:A Compassionate Spy

登場人物:テッド(セオドア)・ホール、ジョーン・ホール

日本版字幕:若林 信乃/字幕監修:新田 宗土

提供:メニーウェル/配給:パンドラ

2022年/イギリス、アメリカ/英語/カラー、モノクロ/ドキュメンタリー/101分


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