父と息子の関係は、娘にはわからない壁があるのかなと思うことがあります。そんなことをふと思い出す映画に出会いました。今回ご紹介する作品は、寺尾聰が18年ぶりに主演するもので、音楽と内容のバランスがとてもすてきな作品です。
後日、妻と息子とともに専門医(佐藤浩市)を訪ねた哲太はアルツハイマーと診断されます。落ち込む素振りは見せず、陽気に笑って息子と酒を酌み交わしています。母はといえば、「逆に病名がついて良かった」と大らかに受け止めています。雄太はそんな両親に呆れつつも、その底抜けの明るさにつられて笑みを浮かべるのでした。困難を前にしても明るさと希望を失わず、前向きに対処しようとするいつもの間宮家の姿がそこにはありました。
恋人の亮一(ディーン・フジオカ)の勧めもあり、雄太はしばらくの間、両親を支えるために横須賀のどぶ板通りにある実家で過ごすことになります。哲太の病状は進行し、長年営んできた間宮楽器店の常連客を忘れてしまったり、運転免許証を返納したことを忘れて配達に出かけようとしたり、毎年出演している「スカジャズフェス」の打ち合わせを何度もしようとしたりと、日常生活に影を落とすことになっていきます。アルツハイマーであることを横須賀の仲間たちに隠し続けるのはもう難しいと考えていた矢先、「スカジャズフェス」当日、哲太の行方がわからなくなってしまいます。
横須賀を走り回りながら、雄太は必死に父を探します。ようやく見つけた父は、どこか遠くに行ってしまっていました。なんとか父を繋ぎとめたいと考えた雄太はカーステレオにカセットテープを差し込み、父が愛した音楽を流しますす。「戻ってこいよ……」との息子の祈りに応えるかのように哲太は自分を取り戻し、歌い始めるのです。朗々と歌う父の姿を息子はスマートフォンで撮影し、動画をインターネットにアップすると瞬く間に拡散され、哲太の歌声はたくさんの人々の心を動かし、同じ境遇にある家族を励ますこととなります。そして、その評判は音楽業界にまで及び、CDデビューの話が舞い込んできます。若き日の哲太の夢は、プロの歌手になることでしたが、雄太の誕生を機にあきらめたのでした。75歳になった今、アルツハイマーになったことをきっかけに再び手が届こうというのです。
刻一刻と哲太の病状は深刻さを増していきます。陽気だった性格は影を潜め、哲太はすべてを忘れゆきます。そんな父に深く傷付けられながらも雄太は寄り添い続け、律子や横須賀の仲間たちの力を借り、父の夢を叶えようとします。デビューのための条件はとても現実するとは思えないものですが、父の歌を終わらせたくないとの思いから、家族みんなの、デビューをかけた運命のステージの幕が上がります。
皆の思いをかけたステージの結末は? そして雄太と哲太の関係は? ぜひ映画館に足を運んで観てください。
この作品は、最初にも書きましたが、寺尾聰の魅力が満載の作品です。そして、父と息子の絆について考えさせられるものでもあります。魅力あふれる俳優陣とともに心に刻まれる数々の言葉もここにあります。
中村恵里香(ライター)
2025年 5月23日(金)全国公開
ソニー・ピクチャーズ公式 X:https://x.com/SonyPicsEiga
スタッフ
監督: 小泉徳宏/脚本: 三嶋龍朗、小泉徳宏/音楽: 横山 克
キャスト: 寺尾 聰、松坂桃李、佐藤栞里、副島 淳、大島美幸 、齋藤飛鳥 、ディーン・フジオカ、三宅裕司、石倉三郎 、佐藤浩市、松坂慶子
2025年製作/93分/G/日本/原案: 『父と僕の終わらない歌』サイモン・マクダーモット著 浅倉卓弥 訳、ハーパーコリンズ・ジャパン刊/製作幹事: 日活、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/制作プロダクション: ROBOT/制作協力: EPISCOPE/配給: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/2025年/©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会