Doing Charity by Doing Business(22)


山田真人

前回の記事の後半で、パウロの人物像と神学に迫りつつ、「貧しさ」「豊かさ」「慈善の業」の循環を考えました。テトスに慈善の業を貫くように呼びかけるパウロは、共同体の中で時に貧しさも体験します。しかし、それは同時にイエス・キリストの名においては豊かさが増すことであるという考えが、彼の神学の中心です。

この連載で扱っているアフリカのマラウイは、2024年版のWorld Giving Indexの寄付指数では9位にランクインする国で、外国人に優しく、心が温かい国として知られています。他の世界的な指数では、経済指数を始め残念ながらワースト10に入ってしまうマラウイが、寄付指数に関しては9位です。こうした国から、私たちの一般的な尺度と違う豊かさを学ぶことができれば、聖書の語る、そしてパウロの神学が語る貧しいが故の強さにも迫れるかもしれません。今回の記事では、そのマラウイについての学びを循環させ、多くの人に伝えるための取り組みを、いくつか紹介させて頂きます。その取り組みが、聖書の説く真の豊かさが広がるきっかけになっています。

三重県立白子高等学校では、NPO法人せいぼとともにマラウイの現状とその産業であるコーヒーについて学びました。その後、学校で独自にできることを模索し、図書館にあるスペースをカフェとして使用する提案をし、そこを生徒の学びの場にも変えていきました。普段コーヒーを飲まない人も、「新しいことを学ぶ」というコンセプトを持ってコーヒーを飲んでみることで、普段しないことに一歩踏み出すことができたようです。その結果、「このコーヒーなら飲める!」と言ってくれる方もいたそうです。こうした具体的な商品に触れ、自分でそれを販売する場所を作ることで、その背景にも興味を持ち、感謝をする気持ちにもなると思います。それと同時に、自分がアフリカという遠い国の人に支えられ、自分ができないことがたくさんあり、他人に支えられていることも実感します。ここに、自分の至らなさ故に感じる感謝があります。それが、人間のネットワーク、世界観を広げてくれます。

このような逆説は、カトリックの中では多く起こってきました。前教皇のヨセフ・ラッツィンガー(ベネディクト16世)の『典礼の精神』(サンパウロ社、2004年)の第三部「芸術と典礼」では、私たちが神を具体的にイメージできないという弱さこそ、豊かな芸術による表現の宝庫になっている点を指摘しています。アフリカには多くの伝統的な芸術があります。そしてコーヒーなどをオーガニックで栽培し、共同体の成長と繋げる側面も多くあります。ここには人間一人ひとりの弱さが分かるからこその豊かさがあります。

福岡県北九州市の西南女学院大学では、栄養学科と英語学科が協働し、マラウイ産コーヒーのラテや水出しのアイスコーヒー、さらには紅茶を使用したクッキーを販売して頂き、その売り上げを寄付してくださいました。栄養学科の皆さんがいたことによって、メニューのレパートリーが広がり、マラウイの産物の多様性を知ることができました。マラウイは実は、1929年頃にアフリカにおいて紅茶を初めてマラウイにて、ビジネス化した国でもあります。そうした情報も学生が知り、私たちが普段飲んでいる紅茶にもブレンドでマラウイ産茶葉があることに気づき、多くの人に知らせることに繋がりました。

もちろん、プランテーションなど植民地もあったのがマラウイの歴史です。しかし、その中で受け継がれたものが、現在の先進国に影響を与えていることも確かです。それを思い起こすことができたのが、栄養学科の皆さんと協働した、クッキー作りという主体性のある取り組みを通してでした。こうした協働によって、自分の活動の可能性が広がるだけではなく、世の中全体のエコロジー、経済的な仕組みにも迫ることができます。

聖書の時代と現代は大きく違うため、異なる応用が必要です。しかし、もしこの聖人が、この人物が今を生きていたらどうするかというメッセージを汲み取ることで、実践に生かすことも可能だと思います。マラウイという国を通して、私たちが時代を超えた本当の豊かさを伝え、次の人にも渡していく循環ができれば、パウロのメッセージも現代化できるかもしれません。

 

山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。

 


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