オリビア・ハッセーさんさようなら


女優のオリビア・ハッセーさんが、2024年の1227日に亡くなられました。

ハッセーさんを意識したのは映画『ロミオとジュリエット』(フランコ・ゼフェレッリ監督 1968年公開)を観たときです。なんと可愛らしく美しいジュリエットなんだろうと感嘆しました。そして、わたしが都立秋川高校の寮生活の中で、就寝の時間に室に流れてくるのが『ロミオとジュリエット』の主題歌でした。

あの心地よいテンポとリズムの歌を聴くと、いまでも同室の仲間を思い出します。洗面所に行って歯磨きをする友や、他室から友が訪ねて来て部活の打ち合わせをしたり。そうしたBGMなのです。

わたしにとって、忘れられない貴重な経験や体験をした全寮制生活を彩る主題歌でもあります。

オリビア・ハッセーさんは、1951年4月17日にアルゼンチンのブエノスアイレスで生まれています。わたしが1951年4月19日生まれなので同い年です。同年齢での出逢いでもあったわけです。

わたしが大学を卒業して出版の道に入り、しばらくしてから3人でマルジュ社という出版社を創りました。数年して顧問格の某大学教授と企画で意見が合わず、悩んでいたときに、新宿の小田急デパートで開催されていた『マザー・テレサ写真展』に入りました。書店の営業をしていて偶然知ったその写真展で、マザーから教えられた「苦しみの中に愛の姿を見出す」という働きに、頭から水をかぶせられたような衝撃を与えられました。わたしをカトリックの道へ導いてくれたのがマザー・テレサでした。

オリビア・ハッセーさんとの二度目の出逢いは、ハッセーさんが『マザー・テレサ』(ファブリッツィオ・コスタ監督 2003年公開)という映画で、わたしが尊敬するマザー・テレサを演じたときです。ハッセーさんのお母さんは敬虔なカトリックであり、ハッセーさんはマザーの役を20年間待ち続けたと言います。

劇映画でマザーを演ずるハッセーさんに、ドキュメンタリーで知るマザーとのギャップは感じられませんでした。

親を失った子供たち、ハンセン病患者、路上で死を待つだけの老人たち。修道院の外へ飛び出してそうした弱き者、小さき者たちと共に暮らすマザーの姿を見事に表現されていました。

73歳での別れは寂しい限りです。わたしの青春時代からの同伴者の一人とも言えるハッセーさんにありがとうと言いたい。天国で安らかにとご冥福を祈ります。

鵜飼清(評論家)


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