土屋 至(SIGNIS Japan会長/元宗教科教員)
クリスマスギフトならばアガサ・クリスティ著『ベツレヘムの星』をおすすめしている。あのミステリーの女王がこんなすてきなクリスマス・ストーリーを書いていたことは案外しられていない。
この本には聖書にアイディアを得たこころ暖まる6種の短編物語と5編の詩が掲載されている。
なかでもおすすめはタイトルにもなっている「ベツレヘムの星」である。いかにもミステリー的などんでん返しが最後に来るところがいい。
ネタバレにならないように簡単に話の展開を紹介しよう。
飼い葉おけのみどりごを見つめているマリアにこうごうしく天使があらわれた。天使は「そなたは神のことのほかの寵愛をうけておる。そこで、私の口添えによって、そなたに未来をのぞかせてやろうとおっしゃるのだ……」と告げる。
「母よ、未来を覗いて、そなたの息子をみるがいい……」といって天使がみせたその子の未来は次の場面であった。
まず、ゲッセマネで「苦悶のさかづきをわれよりとりあげたまえ」とひざまづいて祈っている場面。
マリアはその場面をみて「なぜ神さまはあの子に答え、慰めをあたえてくださらないのですか? あの子はなぜひとりなのですか? 優しい友だちはいないのですか?」と大声で叫ぶ。
それにこたえて天使がうつしだした次の場面は、イエスが祈っている近くで寝っこけている男たちのすがた。
さらに天使がみせたのは、十字架を背負って処刑場への道を上って歩く3人の罪びととその後につづく群集とローマ兵士の一隊。
マリアは「いいえ、そんなはずがありません。息子が罪人だなんて」と言う。
それに対して天使はつぎに十字架につけられている男が苦悶のことば「わが神、わが神、なんで我を見捨てたまいし?」と叫んでいる場面を見せる。
マリアは「いいえ、いいえ、嘘です! あの子がほんとに悪いことをしたはずがありません。何かのとんでもない間違いなのです」とさけぶ。
次に見せた場面は、祭司長が「この男は瀆神の言葉を吐きおったのだ」と男に向かって言う場面。
心では激しく逆らいながら、マリアは今見せられたことが確かに真実であることを認めざるをえなかった。
マリアは涙を流しながら、飼い葉おけの中のみどりごにむかって「お前を救うにはどうしたらいいの? いっそ生まれてこなかったほうがよかった」とさけぶ。
すると天使が言う。「だからこそ私はこうして来たのだよ。マリア。その子を私の手に預けないか、そうすれば神のみもとにつれていってやるが?」
「あなたの手に抱き取ってくださいまし。もしそれが神のお指図ならば。でも私は自分からお預けしようとはおもいません。」とマリアはきっぱり断る。
すると天使の姿は目もくらむばかりの光とともにかき消えた。
そこへヨゼフが入ってきて、マリアは今の出来事をヨゼフにする。「ヨゼフはそれでよかったんだよ」とこたえた。
ここでストーリーを紹介するのは終わりにしよう。
ちょっとストーリーを紹介しすぎたかな。ネタバレになってしまったらもうしわけない。でも次の問いには考えてほしい。いかにもクリスティらしい「どんでん返し」がそこにあるのだが……。
ヨゼフがなぜ「それでよかったんだよ」とこたえたのか?
そして天空ではその天使が自尊心と憤怒にふるえていたという。なぜ?